
政府が提示した次期日銀総裁・副総裁の人事案は、候補者の所信聴取・質疑を経て、3月上旬に開かれた衆参両院の本会議で、賛成多数で同意が得られた。4月9日に植田和男氏が第32代の日銀総裁に就任し、新体制が発足する。
マイナス金利解除の問題や、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール:YCC)に関する植田氏の見解をあらためて整理すると、次のようになる。
2月27日に参院議院運営委員会で行われた所信聴取で植田氏は、「基調的な(消費者物価の)動きは(目標である)2%には間があると考えるため、金融緩和の継続が適当」であるとした。足元で起こっている物価上昇率加速は、需要の強さに基づく「ディマンドプル」型ではなく、資源高や円安による原材料コスト急上昇など供給面のショックに主因がある「コストプッシュ」型であることから、日銀が掲げる「物価安定の目標」2%の持続的・安定的達成はまだ見込めていないと、植田氏は認識している。したがって、「金融緩和は継続が適当」というのが、素直な結論になる。金融政策の伝統的かつ基本的ツールである短期政策金利(現在マイナス0.1%)の引き上げは、視野に入っていないとみるべきだろう。
一方、YCCについて植田氏は、この先いずれかのタイミングで修正に動くことをにおわせている。植田氏を選んだ岸田首相も、異次元緩和を現状のまま硬直的に続けるのはまずいと内心考えているようである。首相官邸と植田氏の息はぴたりと合っていると政治コラムに書いている著名ジャーナリストもいる。
2月27日の参院での所信聴取で植田氏は、「当面はYCC政策のもと、短期と長期の金利を現在の水準に誘導しつつ、必要に応じて国債を買う政策を続ける」と発言した。就任してすぐにYCCを修正するつもりはないと読める。一方、24日の衆院での所信聴取では、「基調的な物価見通しが一段と改善していく姿になっていく場合、YCCについても見直し、ないし正常化の方向での見直しを考えざるを得ない」と明言していた。消費者物価(CPI)の基調的な見通しの改善の有無を、さまざまな経済指標などを手掛かりに、日銀は総合的に判断していくとみられる。
金融市場を含む外部に対して日銀が発信するメッセージから、物価の基調に関する彼らの評価を知ろうとする場合、最も分かりやすいのは、四半期ごとに公表されている「経済物価情勢の展望」(展望レポート)に含まれている、日銀のCPI見通しの数字(正確には政策委員大勢見通しの中央値)を確認することだろう。
CPIの主要カテゴリーのうち、伝統的に日銀が重視しているコア(生鮮食品を除く総合)に加えて、日銀は参考として、いわゆる日銀版コア(生鮮食品・エネルギーを除く総合)の見通しも、最近公表している。原油や天然ガスの国際市況が高騰し、これに為替の円安が加わってCPIが押し上げられる一方、政府が実施している電気・ガス代支援策である「電気・ガス価格激変緩和対策事業」によってCPIが押し下げられており、エネルギーの価格は物価全体の基調を見えにくくする、一種のかく乱要因になっている。
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