(写真:Abaca/アフロ)
(写真:Abaca/アフロ)

 今年の内外経済に大きな影響を及ぼしそうなのが、米国の中央銀行である米連邦準備理事会(FRB)の金融政策運営。22年3月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、0.25%幅で利上げを開始したFRBは、同年5月に0.5%幅で追加利上げした後、6月、7月、9月、11月と4回連続で、0.75%というかなり大きな幅で利上げを積み重ねた。物価の見通しを誤ってしまい、利上げで出遅れたため、急いでキャッチアップを図った側面が大きい。

 

 しかし、22年12月には0.5%にペースダウン。そして、1月31日~2月1日に開催された今年最初のFOMCでは、当局者の発言内容から市場が予想した通りに、追加利上げ幅をさらに落として0.25%にとどめた。2会合連続のペースダウンを経て、主要政策金利であるフェデラルファンド(FF)レートの誘導水準は4.5~4.75%となった。

 今回のFOMC声明文では、第1段落の経済状況認識に関する部分で、インフレ率が「引き続き高止まりしている(remains elevated)」という前回と同じ表現の前に、「やや和らいだ」(has eased somewhat)」という記述が入った。これはハト派的な変化である。一方で、第2段落では、「FOMCはインフレのリスクを非常に強く警戒している(The Committee is highly attentive to inflation risks.)」という、タカ派姿勢を強調するくだりがそのままになった。

 また、市場が注目していた第3段落の文章、「時間をかけてインフレ率を2%に戻すべく、十分に制約的な(sufficiently restrictive)金融政策スタンスを維持するため、(FFレート)目標レンジの進行中の引き上げ(ongoing increases)が適切だとFOMCはみている」についても、今回の修正はなかった。FRBとしては、今後のさらなる複数回の利上げを想定しているという含意であり、これは22年12月時点のFOMC参加者の金利見通し(いわゆるドットチャート)に沿ったものである。

 もっとも、この日の米国市場は「株高・債券高(長期金利低下)・ドル安」に動いた。FOMC終了後に行われたパウエルFRB議長の記者会見における、次の発言が主因とみられる。

 「ディスインフレのプロセスが始まったと初めて言うことができる(We can now say for the first time that the disinflationary process has started.)」パウエル議長は記者会見で、FRBにはインフレ抑制に向けてなお取り組むべきことが数多くあるとした上で、利上げの続行を引き続き想定している、早い段階での利下げへの転換はないというタカ派的な姿勢を基本線として、あらためて示した。しかしその一方で、同議長は上記の通り、ディスインフレ(インフレ率鈍化)のプロセスが始まったと明言することにより、今回の利上げ局面は終盤だという市場の多数意見を、間接的には裏付けたとも言える。

 素直に考えるなら、利上げ幅ペースダウンの次に来るものは、利上げの停止であり、さらにその先に来るものは利下げへの「姿勢転換(ピボット)」である。先読みするのが常である市場はすでに、FRBによる今秋以降の利下げ実施を織り込んで動いている。また、市場はFOMCとその後のパウエル議長記者会見をウォッチする際、「株高・債券高(長期金利低下)・ドル安」進行によって、米国の「金融環境(financial conditions)」がFRBの意図よりも早いタイミングで大幅に緩んでしまうのを回避すべく、FOMCでは意図的にタカ派姿勢を前面に出すのではと警戒していた。

 だが議長の発言内容は淡々としており、市場に対するけん制的なトークは事前に警戒したほどではなかった。そうした受け止めから、この日は株式と債券が買われ、ドルが売られたわけである。最近の金融環境の緩みに関する質問に対してパウエル議長は、「短期的な動きではなく、持続的な変化が焦点だ」といった発言にとどめた。

 パウエル議長はなぜ、タカ派的なトークを手控えたのか。一つ考えられるのは、中央銀行と金融市場の、微妙な関係である。そこに着目した筆者は2月2日、日本経済新聞電子版の有識者コメント欄「Think!」に、以下の寄稿を行った。

FRB議長発言ににじむ『ハト派色』(NY特急便)
(ひとこと解説)中央銀行と市場の「間合い」には微妙なものがある。株価指数(米国ではS&P500種)や長短金利差は、景気の先行指標とみられている。景気(さらには物価)の先行きに関して市場が発するシグナルを中央銀行が無視するのは難しい。それらも判断材料に組み込みながら、中央銀行は景気・物価の先行きを予測しているからである。その意味で、たとえFRBの姿勢転換(ピボット)観測を主因に米国株が上昇し、米国債利回りが低下している場合でも、市場がそう判断して売買を行う背後には経済指標の解釈など相応の根拠が存在しているはずだから、FRBがそれを全否定するのは困難。パウエル議長がタカ派発言を行うことには、そもそも限界があった。

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