
「為替市場における急激な円安・ドル高進行が引き起こすインフレ率上昇によって日銀は異次元緩和の修正に追い込まれるはずだ」「世界的な『利上げの潮流』に逆らって日銀だけが金融緩和を続けることはできるはずがない」――。そうしたロジックを前面に掲げながら、海外のファンドが6月中旬を中心に日本の国債を現物や先物で大量に売り越して、日銀に戦いを挑んだ。
だが、日銀には中央銀行として無限の信用創造能力がある。その気になれば日本国債を全て買い占めることさえ可能である。海外勢には最初から勝ち目がなかったというのが、国内の債券市場参加者の大方の見方である。これに対し、一部マスコミの報道内容には、上滑り気味のものが目立った。
日銀(あるいは日本政府)に戦いを挑む形で、市場で日本の国債を大規模に売却するトレードは、欧米の市場参加者の間では「ウィドウ・メーカー」と、昔から呼ばれている。大切な夫が亡くなってしまい寡婦になるという意味であり、手痛い敗北を喫することになるぞという警告の念を込めた呼び名である。
財務省が発表している「対外及び対内証券売買契約等の状況(週次・指定報告機関ベース)」で、7月10~16日の週の対内中長期債投資(国債以外の債券も含む一方、短期債は除かれている)は、改定値で1兆7532億円の買い越しになり、前週の2兆582億円に続いての大幅なプラスが記録された。これら以前の2週間も海外投資家は日本の中長期債を買い越しており、4週間の合計は4兆8088億円という巨額になる。
6月12~18日の週には4兆8112億円という大きな売り越しが記録されていた。もちろん、同じ市場参加者が売ったり買ったりを上記の期間に行ったとは限らないのだが、少なくとも外形的には、連続指し値オペを長期金利変動許容幅の上限0.25%でオファーし続けるなど、異次元緩和の中核である「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール=YCC)」をしっかり防衛するために日銀が強気姿勢を保ち続ける中で、海外投資家は7月になって「撤収」に動いたものと推測される。
そもそも論を言えば、国ごとに景気・物価の状況や金融政策の運営方針が異なるのだから、海外で多くの中央銀行が利上げに動いたからと言って、日銀も同じことをしなければならないという話にはならない。むろん、為替市場が各国中央銀行の金融政策のベクトルの違いに強い関心を寄せており、それが相場を動かす最大のドライバーになっている場合は、利上げに動かない国の通貨(この場合は日本円)が市場で売り込まれる結果、その国が輸入する品目の価格が上昇し、消費者物価の上昇率(インフレ率)も上昇することになる。
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