22年ぶりの大幅利上げに踏み切ったジェローム・パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長(写真:AP/アフロ)
22年ぶりの大幅利上げに踏み切ったジェローム・パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長(写真:AP/アフロ)

 金融引き締めを急速に進めようとする米連邦準備理事会(FRB)のタカ派姿勢と、異次元緩和の粘り強い継続によって物価目標2%の持続的・安定的達成をあくまで目指す日銀のハト派姿勢。両者のベクトルの違いを最大の材料にして、為替市場で円安・ドル高が急速に進み、一時131円台前半になった。

 為替政策は日本では財務省の管轄であるにもかかわらず、「悪い円安」というコンセプトを前面に出したマスコミ報道の中には、米国に対抗して金融引き締め方向の動きを日銀が早急に見せて円安に歯止めをかけるべきだというニュアンスを帯びるものが少なくなかった。

 だがそうしたムードの中でも日銀関係者からは、「為替防衛のために利上げするなら米国並みに上げないと効果はなく、そのペースで日本が利上げしたら財政が破綻し円安が止まらなくなる」という指摘が出ていた(4月16日付 日本経済新聞)。「円安で得をする人たちは黙っている。景気が良くない中で金融を引き締めるなんて、あり得ない」と日銀幹部が苦々しい表情を浮かべたとの報道もあった(4月28日付 共同通信)。

 白川方明前総裁時代の日銀は、金融危機が発生した後、為替市場における現在とは正反対の動き、円高・ドル安の急進行に直面して苦闘した。その局面でよく聞かれていたのが、「日銀の金融緩和は小さすぎて遅すぎる(too little, too late)」「金融緩和は出し惜しみせず思い切ってやるべきだ」という類の日銀批判だった。FRBの金融緩和と同じマグニチュードで日銀も動けば円高・ドル安は止まるはずだという趣旨である。

 けれども、日銀の利下げ余地には、その当時に支配的だった「金利のゼロ制約」を前提にすれば、物理的に限度がある。政策金利を2008年中に0.5%から2回利下げして0.1%にした後は、「新型オペ」(0.1%固定)による資金供給拡大や、「資産買入等の基金」を兆円単位で段階的に創設・拡大することにより、「金融緩和を大規模に積極的にやっている感」をなんとか醸し出そうと、当時の日銀は努力を重ねていた。

 仮に日銀が、円安に歯止めをかける狙いで、マイナス金利の解除や長期金利の許容変動幅拡大(上限引き上げ)など円の市場金利を上昇させる方向で何らかのアクションを取る場合でも、その効果にはどうしても限界があり、市場からは「どうせ動くならもっと大きく」と催促され続けることになる可能性が高い。

 それは、為替市場のプレーヤーとの間の不毛な駆け引きへの勝算が立たない突入であり、金融政策の本来のありようを見失った軽率な行動ということに、最終的にはなってしまうだろう。

円高も円安も「良い」「悪い」で論評されすぎ

 白川前日銀総裁は時事通信の最近のインタビューで、「円高も円安も『良い』『悪い』で評価する議論には違和感を覚える。為替レートと金融政策を直接結び付けているように感じられるからだ」と述べていた。

 政策の前線で市場と戦った人物による、本質をついた発言であり、もっと広くマスコミ報道で取り上げられてもよかったように思う。紙面の論調とかみ合わないのであまり報道が広がらなかったのではないかと、筆者は勘ぐっている。

 すでに述べた通り、庶民の生活苦につながる「悪い円安」を日銀はなんとかすべきだという主張は、難点だらけである。筆者の見方を整理すると、以下のようになる。

◇為替相場のある特定の水準が日本経済にとって「良い」か「悪い」かの二分論的なレッテル貼りは危うい。企業か家計か、企業の中でも大企業か中小企業かなど、経済主体によって、メリットとデメリットのバランスは異なる。

◇為替相場の変動が問題になるのは通常、その水準ではなく、変化スピードである。緩やかな水準シフトではなく、あまりに急激に変化するようだと、企業の対応がすぐには追い付かない。

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