「悪い円安」は金融政策をどう変える? 変えない?(写真:つのだよしお/アフロ)
「悪い円安」は金融政策をどう変える? 変えない?(写真:つのだよしお/アフロ)

 「悪い円安」という表現を日本のマスコミ報道の中で見かける機会が、このところにわかに増えている。例えば、「『悪い円安』懸念再び5年ぶり一時118円台、物価圧力一段と」(3月16日、時事通信)、「複合危機下の米利上げ(下)黒田日銀10年目のジレンマ――悪い円安、流出する国富」(3月21日付、日本経済新聞朝刊)といった具合である。金融市場関係者の会話の中に登場する機会も増えている。

 このように、耳にする機会が最近増えている「悪い円安」は、人口減・少子高齢化を背景とする日本の国力低下や先進国の中で突出して悪い財政状況など、日本特有のネガティブな面を材料にしての、長期スパンの円安・ドル高の話ではない。

 ドル建てで取引される原油など国際商品の値上がりが為替の円安により増幅されて、日本の個人消費や中小企業収益を圧迫しているという、基本的には短期スパンの話である。むろん、そうした足元で見られている現象は構造の変化に立脚しているので長期のトレンドにそのままなり得るという見方もあるわけだが。

 円安・ドル高の、経済主体ごとの差し引きした得失は異なってくる。経済全体で考える場合にプラス面の方が大きい場合を「良い円安」、マイナス面の方が大きい場合を「悪い円安」と俗称している。ただし、円安の善しあしを厳密に測定して判定するツールがどこかにあるというわけでもない。その意味で、「悪い円安」というのは、どこか漠然としたコンセプトだと言える。

日米の金融政策、ベクトルの違いで円安・ドル高進行

 3月24日の欧米市場で、ドル/円相場は一時122円台に乗せた。これは2015年12月以来の出来事である。米国で米連邦準備理事会(FRB)がアグレッシブな金融引き締め路線を前面に出す一方、日銀は「物価安定の目標」2%の持続的な達成に向けて、粘り強く異次元緩和を続けていく姿勢を堅持している。こうした日米中央銀行の金融政策のベクトルの違いが、為替市場における円安・ドル高の進行につながっている。

 さらに、日本の貿易収支の赤字がこのところ膨らんでおり、昨年12月からは経常収支も2カ月連続で赤字になっていることが、円安・ドル高が進行する原因の1つになっている。海外で稼いだ収益が為替市場で円転されにくい(ドルなど外貨のまま海外でプールされる傾向が近年強まっている)状況はずいぶん前から指摘されている話で、国際収支面では為替市場で円高が以前よりも進みにくい構造変化は、とうの昔に生じていたといえる。

次ページ 金融引き締めの可能性は小さい