代表的なタカ派の1人であるクノット・オランダ中銀総裁は6日、ECBの利上げ開始時期は今年の10~12月期で、2回目は23年1~3月期になるという、自らの見通しを表明。ECBが実施し続けている資産買い入れはできるだけ早く段階的に縮小すべきだとした。

 9日にはドイツ連邦銀行(ブンデスバンク)のナーゲル総裁が新聞インタビューで、「3月までに(物価の)情勢に変化がなければ、金融政策の正常化を提唱する」「行動が遅すぎると、良いタイミングで行動する場合に比べ経済的コストはかなり重くなる」「行動が遅れると、より大幅でより急ピッチな利上げが必要になる」と発言。資産買い入れを早期に縮小した上で、ECBは年内に金利を引き上げる可能性があるとした。

 ユーロ圏ではこのように、タカ派のECB理事会メンバーによる年内利上げの可能性への言及や、ECBスタッフによる物価予測に不信を示すメンバーが増加しているとの米ブルームバーグ通信の報道などが市場の関心を集めやすい状況が、いったん現出した。

 だが、2月の10日以降は、ラガルド総裁らハト派の理事会メンバーによる「巻き返し」的な発言が目立っている。

 自らの発言修正が市場の大きな動揺を招いた形になったラガルド総裁はインタビューで、金融緩和の縮小は「段階的にしか進められない」と強調して、発言の内容を調整。金融政策の正常化を自動車の運転に例えた。

 すなわち、「方向を変えるときに、5速でフルスピードという人はいない」「まずアクセルから足を離し、段階的にギアを落としていく」のと同じだと説明した(2月12日付日本経済新聞夕刊)のだ。わかりやすい比喩であり、利上げやQTを急速に進めようとする雰囲気が強まっている米国とは、明確に一線を画した。

3月の利上げを事実上予告

 また、デギンドス副総裁は10日、「世界の中央銀行が必ずしも同時に利上げに踏み切らないのは自然なことだ」と指摘。「われわれはフォワードガイダンス(先行きの金融政策運営に関する約束事)の条件に沿って動いており、条件がそろった場合に利上げする」とした。

 FRBが3月の利上げを事実上予告した上に、FOMC参加者の一部がタカ派姿勢を相当強めている中、市場では「米国がそうなら、ユーロ圏や日本も遠からず金融政策の正常化方向で動きを活発化するのではないか」といった思惑が広がっている。

 そうした見方は確たる根拠や合理性を欠いていることを指摘した形のデギンドス副総裁発言は、日銀の黒田東彦総裁の最近の発言内容とも重なり合う。毎日新聞が11日付の朝刊に掲載したインタビューの中で黒田総裁は、「各国の政策の方向性が同じでないといけないわけではない」と述べていた。

 フィンランド中銀のレーン総裁は10日、地政学的な緊張(ウクライナ情勢が当然含まれると推測される)や、それがエネルギー価格・経済成長に及ぼす影響に言及。「不確実な状況下では、格言にあるように後悔するより見守る方がよい、つまり金融政策の正常化は段階的に、緩やかに進める方がよい」と述べた。説得力の高い主張である。

 ウクライナ情勢の今後の展開次第では、ユーロ圏の景気が急速に落ち込む可能性がある(ロシアからの天然ガス供給途絶、戦争勃発を受けた消費マインドの大幅悪化など)。そうしたリスクケースでは、ECBは金融緩和縮小ではなく、逆に金融緩和強化を検討せざるを得なくなる可能性もあるだろう。

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