若田部副総裁によるこの講演は、ロジカルにしっかり整理された内容だった。そして、その後の記者会見では、「イールドカーブ・コントロール、あるいは長期金利の目標水準の部分について、いろいろな議論があることは承知していますが、これについて修正するということは全く考えていません」「日本の金融政策が修正されるのではないかということですが(中略)、本日のあいさつ(講演)でも述べたように金融政策の修正は全く考えていません」といった、非常にダイレクトな発言もあった。
だが、そうした発言が海外の市場参加者の考えを変えるほど大きな効果を有するかどうかは、また別問題である。
黒田総裁に続いて「火消し」のために登板したのが次期総裁の有力候補の1人とされている日銀プロパーの雨宮正佳副総裁ではなかったことを、気にする向きもあろう。だが、雨宮副総裁は昨年12月8日に徳島県金融経済懇談会であいさつ(講演)・記者会見したばかりだったため、2月早々にまた登板するというのは難しかったと考えられる。
リフレ派の学者が1つを占めてきた日銀副総裁ポストが、23年春のトップ3人の交代で(黒田総裁の任期満了は23年4月8日、雨宮・若田部両副総裁は3月19日)どうなるかという点への市場の関心は、非常に高い。
リフレ派枠は残るのか?
岸田内閣が人選する中で仮にリフレ派の枠がなくなるのなら、それは、岸田首相の「安倍離れ」、リフレ派を重用していた安倍晋三政権時代との決別を意味すると受け取られるだろう。その場合、異次元緩和修正に関する市場の思惑は、一段と強まる可能性が高い。
異次元緩和が少なくとも「黒田時代」のうちはそのままだというメッセージがいくら出てきても、市場の思惑は完全には消えない。なぜなら、市場はすでに「ポスト黒田」の日銀の陣容やその政策運営方針へと、関心を移しつつあるからだ。
そして、日銀総裁・副総裁人事の前哨戦として市場の関心が高いのが、日銀審議委員の人事である。エコノミスト出身のリフレ派であり、毎回の金融政策決定会合で追加緩和を主張してきている片岡剛士氏の審議委員任期が、7月23日に満了する。後任もリフレ派になるのかどうかを、将来の異次元緩和修正の有無とも絡めて、市場は注視している。
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