23年春の「ポスト黒田」への体制移行に備える時期へとこの先徐々に入っていく中で、金融政策を新しい体制で少しでも正常化できないかという観点から、日銀プロパーの事務方幹部がブレーンストーミング的な議論を内部で行っているのだろうと、筆者は勝手に推測している。

 上記の報道をきっかけにして異次元緩和修正の思惑が広がる際には、いくつかの「伏線」があった。

 まず、米連邦準備理事会(FRB)が、タカ派姿勢へと急速に傾斜していったことである。ハト派とみられてきた米国の当局者が早期かつ複数回の利上げ実施や量的引き締め(QT)の前倒し実施に続々と賛意を示したため、日銀のスタンスについても市場で疑心暗鬼になり、疑念が生じやすくなった。「いつ手のひらを返すか分からない」という警戒感である。

 また、米国の利上げ観測が中期ゾーンの米国債利回りなどに急速に織り込まれたことを受けて、為替市場では「金利相場」的な値動きの中で、円安・ドル高が一時116円台まで進行した。いわゆる「悪い円安」論をマスコミなどが取り上げる中で、日銀が金融政策運営への批判を嫌って異次元緩和の修正を模索し、岸田文雄内閣もそれを容認するのではないかという見方が浮上しやすくなった。

 だが、黒田総裁は1月の金融政策決定会合終了後の記者会見で、そうした早期緩和修正の思惑を、やや暴走気味ではないかと市場でささやかれたほどの強いトーンで打ち消そうとした。物価目標2%がまだ達成されていない中で粘り強い緩和姿勢を掲げたはずの黒田日銀が、総裁任期満了近くになって突如方針転換するのは、どうにも説明をつけにくい話である。

若田部副総裁のあいさつを読み解く

 黒田総裁の発言だけでは市場が安定しない状況下、次に登板したのは、学者出身のリフレ派である若田部昌澄副総裁だった。

 若田部副総裁は2月3日、和歌山県金融経済懇談会にオンラインで参加し、あいさつ(講演)を行った。この講演は、金融政策正常化に向けて日銀が何かしてくるのではないかといった臆測を打ち消そうとする内容になるだろうと筆者を含む市場の側は事前に予想し、実際にそうした内容になった。重要な部分を引用すると以下のようになる。

 「日本では、物価上昇率はまだ2%の『物価安定の目標』に安定的かつ持続的に達しておりません」

 「海外の中央銀行が、自国の物価上昇率が目標率を超えて上昇する中で、金融緩和政策の修正に乗り出しており、日本銀行も金融緩和政策の修正をすべきではないか、そうした議論をしているのではないかという推測が出ております」

 「そもそも論として、現代では、金融政策は自国の雇用や所得などが安定的に発展するように、自国の物価の安定を目指して運営されるものです」

 「感染症からようやく経済が持ち直している現状においては、目標達成前の金融政策の引き締めは、経済の回復の腰折れを招きかねず、時期尚早と言わざるを得ません」

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