
1月末近くのある日、会社で筆者が作成している週次の顧客向けニューズレターの原稿をチーム内の相互チェックに回したところ、「今後2週間の経済指標発表・行事予定に2月4日開幕の北京冬季オリンピックが入っていませんが」と、部下から尋ねられた。
金融市場で直接大きな材料になるイベントではないので掲載はそのまま見送ったのだが、このスポーツイベントの開会式は、世界の政治経済の先行きを見通す上で考えさせられるものになった。米国をリーダーとする「民主主義」国家群と、中国やロシアなど「専制主義」とも呼ばれる国家群などとの世界の分断が、開会式に出席した要人たちの顔ぶれから、はっきり示されたからである。
新疆ウイグル自治区での人権侵害などを理由に、米国のバイデン政権は北京五輪に政府高官らを派遣しない「外交ボイコット」を表明し、英国、オーストラリア、カナダなどが追随した。日本は政府代表団の派遣を見送り、五輪関係者のみの出席にとどめる対応をとった。
北京冬季五輪開会式の出席予定者として1月28日に中国外務省が発表した国・国際機関の要人は30人以上だった。近年の五輪に比べると首脳級の人数としてはかなり少ないが、ここで問題となるのは誰が来たかである。
中国との関係を強化するサウジ
まず、ロシアのプーチン大統領。中国と同様、米国との対立を深めつつあるプーチン大統領の出席は、早くから確実視されてきた。開会式当日に行われた習近平国家主席とプーチン大統領による会談の終了後には、安全保障問題を含む国際関係に関する共同声明が発表された。米国に対抗して中ロ両国の協力関係を深めていくことが、会談で話し合われたとみられる。
緊張が高まっているウクライナの問題でも、中国はロシアの主張を明確に支持する姿勢である。米国のブリンケン国務長官と中国の王毅外相は1月26日に電話で会談した。その際、「ロシアの合理的な安全保障上の懸念を重視し解決すべきだ」「(NATOのような)軍事グループの強化・拡張によって地域の安全を保障することはできない」と、王毅外相は主張した。
旧ソ連圏からはほかに、カザフスタンのトカエフ大統領、タジキスタンのラフモン大統領がリストに名を連ねた。カザフスタンは中国が推進する「一帯一路」で地理的に重要な位置にあり、トカエフ氏は流ちょうな中国語を話すという(1月29日付 日本経済新聞)。
中東の王制国家(民主主義国ではないため昨年12月の「民主主義サミット」には出席せず)からは、サウジアラビアで実権を握るムハンマド皇太子の名前が、出席予定者のリストにあった(ただし、人民日報によると実際には出席しなかった)。サウジは、イランに対抗する必要もあって、米国との外交関係を長く重視してきたものの、近年ではサウジアラビア人記者殺害事件などを巡って、対米関係が悪化している。
そうした中、サウジは中国との関係を強化しつつある。CNNは昨年12月23日、サウジが中国から技術支援を得て弾道ミサイルを製造していると報じた。中国からの弾道ミサイルの購入ではなく、自国での製造というのは、本当だとすれば一歩踏み込んだ話である。
ほかに中東からは、アラブ首長国連邦(UAE)アブダビ首長国の実力者であるムハンマド皇太子らも、出席予定者リストに名を連ねた。
欧州連合(EU)からは、「法の支配」を巡って欧州委員会と対立しているポーランドのドゥダ大統領が出席した。ポーランドの憲法裁判所は2021年10月、EU条約の一部に対して違憲判断を下しつつ、EUの法律よりも国内法が優先されるとした。
これはEU法優位原則の明確な否定である。ポーランドはEU共通の価値観を有しないと判断した欧州委員会は、同国への制裁金にもつながり得る法的手続きに入ることを決めたと、昨年12月22日に発表した。
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