ところが、中期ゾーンの米国債への売り圧力を一層強めかねない材料が、別の角度から出てきた。利上げの「回数」ではなく、1回当たりの「幅」という点からである。

 FRBによる利上げの回数を想定する際は、当局者も市場参加者も、経済金融情勢をにらみながら、あるいは市場が予測可能なものとするために、利上げは漸進的なプロセスになり、毎回の利上げ幅は標準的な0.25%だという、暗黙の前提を置いている(かつて、グリーンスパンFRB議長の時代には“baby steps”と表現されたこともあった)。

 ところが、著名投資家ビル・アックマン氏が1月半ばにSNSに投稿した中で、FRBはインフレとの闘いに敗れつつあり、「信頼を回復するために」3月に市場予想を上回る0.5ポイント幅で利上げを行う必要があると述べたことが、市場の警戒心を刺激した。

 「未解決の重要な問題は、インフレファイターと考えられている連邦準備制度に対する信頼の喪失だ」「最初に0.5ポイントの利上げをすればインフレ期待を低下させる反射的な効果があり、将来において経済的な痛みを伴うより積極的な措置を講じる必要性が抑制されるだろう」と、アックマン氏は述べた。

 1994年以降の利上げ局面におけるFRBの「最初の一歩」は、いずれも0.25ポイント幅だった(94年2月、97年3月、2004年6月、15年12月)(図1)。

図1:米フェデラルファンドレート誘導水準
図1:米フェデラルファンドレート誘導水準
出所:米連邦準備理事会(FRB)
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 金融政策のベクトルが変わるときには、金融市場の激変を避けようとするのが定石である。そして、「小幅の利上げにすぎないので金融環境はなお相当緩和的なままだ」というような、市場の落ち着きを促す狙いを込めた説明を、当局者が付け加えたりする。

タカ派姿勢の強化が告げる「宴の終わり」

 だが、アックマン氏が提示した手法は、そうした過去のパターンとは全く異なるものである。FOMC参加者の側からは今のところ賛同者が出ていないので、3月に利上げが開始される場合はやはり0.25ポイント幅になる可能性が高いとみられるものの、同氏の主張の根幹にある「インフレファイターとしてのFRBの信認回復の必要性」「インフレ期待の低下を最初から強く狙うことのメリット」については、内心共感しているタカ派のFOMC参加者がいてもおかしくない。

 パウエルFRB議長は1月26日のFOMC終了後の記者会見で、3月の次回FOMCでの利上げ開始を事実上予告した。利上げの回数や量的引き締めの開始時期について現時点で特定してコミットすることは避け、政策運営の自由度をある程度確保しようとしたものの、金融政策の正常化を早く進めようとするタカ派的な姿勢に変わりはなかった。

 早期かつ複数回の利上げ(およびその少し先にある量的引き締めへの着手)が市場に織り込まれる中、米国株は明らかに不安定化している。ナスダック総合指数は1月18日の終値で、テクニカルに大きな節目である200日移動平均線を下回った。20年4月以降で初めての出来事である。小型株、ビットコインなどの下落幅の大きさも目立っている。

 FRBによるタカ派姿勢の強化は、「オーバーキル(景気の過剰な押し下げ)へ一直線」にほかならないと、筆者は見ている。そして、米株式市場からは「不気味な地鳴りの音」が聞こえてきており、「宴の終わり」の到来を告げられようとしている感が強い。

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