立法・行政・司法に続く「第4の権力」とも呼ばれることがあるマスコミのうち何社かは、岸田内閣が決定した大規模な経済対策をかなり厳しく論評した。今回最も目立ったのは、日本経済新聞が11月20日朝刊の1面に掲載した「これで日本は変わるのか」である。筆者の考えと重なり合う部分が多いので、以下に重要な部分を引用しておきたい。

 「未来を切り開くのか、過去に戻るのか。どちらを向いているのか分からない経済対策だ」
 「かつて何度も見てきた光景のような気がする。バブル崩壊後、歴代政権は繰り返し巨額の経済対策を打ち出してきた。どれもうまくいったとは言えない」
 「日本はやはり変わらないのか。成長せずに借金だけが膨らむ。先祖返りしたかのような規模ありきの対策は、次の世代にそんな日本を引き継ぎかねない」

 平成バブル崩壊以降、大規模な経済対策が繰り返し策定されてきたが、突き詰めて言えば、低成長・停滞へと向かう日本経済の大きな流れに変わりはなかったと言えるように思う。兆円単位のお金をつぎ込んでも、それが潜在成長力を底上げすることにはならなかった。

「生産性向上」には具体性なし

 公共事業さらには減税によって国内需要を刺激しようとしても、一過性のカンフル剤に終わってしまう。それなら規制緩和や生産性向上による経済の構造改革だ、という方向に話は進むのだが、規制緩和は競争環境を激化させて、景気に対しては短期的にネガティブに働く上に、既得権のある層から強い反発がある。

 また、生産性向上というのは概念先行の色彩が濃い話である。学者や政治家が呪文のように言うのは簡単だが、では具体的に何をするのか、それによってどのようなタイムフレームで、どの程度の成長力押し上げの効果が期待できるのかとなると、話は行き詰まってしまう。

 筆者は人口動態重視のエコノミストとして、少子化対策に加えて外国人材受け入れ、観光客誘致策の強化を含む、多面的な人口対策こそが成長戦略の核だという主張を、長きにわたり展開している。だが、今回の衆院選では主要政党の間でそうした話が出ることはなかった(その前の自民党総裁選では、野田聖子氏が人口問題を前面に掲げたものの、多勢に無勢だった)。日本経済新聞が掲載した上記の論説でも、そのあたりへの踏み込みは見られなかった点が残念である。

 「財政拡張一辺倒」とでも言えそうな日本の政治状況は、米国やドイツに比べると、明らかに異質である。日銀の異次元緩和が債券市場の「警告シグナル」発信機能を消滅させており財政規律の弛緩(しかん)につながっていることは非常に大きな問題なのだが、それに加えて、財政健全化志向の政党や政治家が表舞台に出てこないことは、憂慮すべきだろう。

 米国では、(トランプ前大統領退任後の)共和党、および民主党穏健派のマンチン上院議員らが、バイデン政権による大規模な財政出動案に「待った」をかける場面が目立っている。民主党急進派の意向に沿った気候変動・社会保障関連の歳出法案は、当初は10年間で3.5兆ドル規模だったものが、1.75兆ドルまで圧縮された。

次ページ 借りたお金はがんばって真面目に返そう