イングランド銀行のアンドリュー・ベイリー総裁(写真=代表撮影/ロイター/アフロ)
イングランド銀行のアンドリュー・ベイリー総裁(写真=代表撮影/ロイター/アフロ)

 インフレ率の加速が続き、早期かつ複数回の利上げを織り込む形で中期ゾーンの国債利回りが急速に上昇してしまい、このまま「打たれっぱなし」なのかと思われたオーストラリアや米欧英の中央銀行が、市場の行き過ぎた思惑に対して11月初めに「反撃」を加えた。

 エネルギー高や半導体不足といった供給側の制約ゆえに、これらの国・地域のインフレ率はしばらく高い数字が続きそうであり、中央銀行が「防衛戦」を終えたわけでは全くないものの、1つのヤマ場は乗り越えた。

 日本のマスコミはほとんど取り上げなかったが、流れを決め得るイベントとして債券市場で大きな注目材料になったのが、11月2日に開催されたオーストラリア準備銀行(RBA)の理事会だった。オーストラリアの債券市場では、3年債(2024年4月償還の豪国債)利回りがRBAの設定した誘導目標の0.1%を突破して大幅に上昇してしまい、RBAの下す決定内容が注目された。

オーストラリアは誘導目標を取り下げ

 結果は大方の予想通り、この誘導目標を取り下げるという決定だった。この点では市場に対する明らかな敗北である。RBA流の「イールドカーブコントロール(YCC)」にはピリオドが打たれた。

 日本銀行が実施しているYCCと異なり、RBAの場合、債券市場への介入姿勢が中途半端だった感が否めない。また、国内の市場参加者のプレゼンスがなお大きく、日銀の「威光」が通りやすい日本の債券市場とは違って、オーストラリアの場合は国外のプレーヤーが中心になって、3年債をドライに売り崩したと言えそうである。

 上記の3年債ターゲット撤回決定についてRBAは声明文で、「経済における改善とインフレ目標に向けた予想より早い進展」を反映したものだとした。そして、「他の市場金利がより高いインフレ率とより低い失業率の可能性増大に対応して動いてしまったことに鑑みると、オーストラリアにおける金利の全体構造を押し下げる上で、利回り目標の有効性は低下した」と記述した。

 要するに、無制限に国債を買い入れるというところまで踏み込まない中途半端なYCCは、市場の力に抗し切れず、現状追認的に打ち切られたということである。

 ただし、RBAがそのまま市場になびいて早期利上げに傾斜するようなことはなく、量的緩和はこれまで通り、少なくとも22年2月半ばにかけて週40億豪ドルペースで続行されることになった。RBAは「全面降伏」は回避し、ハト派寄りの姿勢をしっかり維持したと言える。この発表内容を見た日本の債券市場では、安心感から買いが入った。

 RBAの声明文は、理事会は「忍耐強くなる用意がある」とした上で、中心的見通しでは基調的インフレ率は、23年末時点で(利上げにつながる)2.5%を上回ることはないと記述。賃金の伸びはごく緩やかだろうとした。利上げの条件は24年まで満たされないとしていた従来の方針は、コミットメントをやや弱める方向に修正されたものの、彼らが利上げを想定する時期が市場の織り込みに屈して大きく前倒しされるようなことはなかった。

 記者会見したロウRBA総裁は、今後の政策金利(キャッシュレート)調整のタイミングには不確実性があるとしつつも、今回の決定は24年より前に政策金利を引き上げるとの見解を反映しているわけではなく、24年までキャッシュレートが現行水準(0.1%)にとどまる可能性は依然としてあると、説明を加えた。

 仮に、RBAが市場の力に屈して完全に白旗を掲げていれば、債券市場の不安定な状態が一層深刻化するのみならず、ハト派からタカ派への姿勢急転換により、RBAの信認は大きく低下しかねなかった。

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