中国版「固定資産税」を検討する中国
中国では、習近平(シー・ジンピン)国家主席の演説が中国共産党理論誌「求是」10月16日号に掲載された。共に豊かになる社会を目指す「共同富裕」は「社会主義の本質的要求であり、中国式現代化の特徴だ」と説明し、中間所得層の拡大や税制改革に取り組むとした。そして、そこで初めて明らかになった具体策の1つは、「高すぎる所得を合理的に調整する」狙いの所得税制度の改善である。累進課税強化が念頭にあるとみられる。
さらに、日本の固定資産税にあたる「不動産税」の「立法化に向けた改革を積極的に進める」とした(10月17日付朝日新聞)。これを受けて全国人民代表大会(全人代)常務委員会は10月23日、「不動産税」を一部の都市で5年間、試験的に導入することを決めた(10月23日付朝日新聞)。
中国が中間所得層の拡大に向けて実行しようとしている所得税の累進課税強化や固定資産税の導入は、日本がすでにしてきたことと二重写しに見える。
岸田氏が述べることの多い「成長なくして分配なし」というコンセプトは、非常に厳密に言えば、正しくない。たとえ経済成長がゼロであり、フローの所得が新たに生み出されなくても、ストック(資産)に課税して再分配することにより、貧富の格差の是正は(その適否や実現性はともかく)可能ではある。フランスの経済学者トマ・ピケティ教授が主張する「資本に対する世界的な累進課税」が1つのアイデアである。
最近では、米国でウォーレン上院議員らが「ウルトラ・ミリオネア・タックス(超富裕税)」の導入議案を3月に提出した事例がある。資産が5000万ドル超の世帯に年間2%、10億ドル超の世帯に年間3%の納税を義務付ける内容である。議会における民主党左派の勢力は限られるため、むろん実現はしていない。
米経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルなどの報道によると、上記と異なる内容で富裕層をターゲットにした資産課税案が、バイデン政権が実現を目指している大型財政出動の財源プランとして一時浮上した。超富裕層が保有している資産のうち未実現のキャピタルゲイン(含み益)に毎年課税する構想である。
ペロシ下院議長は10月24日のCNN出演時に「おそらく何らかの富裕税(a wealth tax)が実現するだろう」と述べた。だが、逆にキャピタルロスが発生した場合にどうするのかなど難題が多く、この案は税制としては安定性に欠けると言わざるを得ない。結局、この案は採用されず、代わりに年間所得1000万ドル超の富裕層の所得に上乗せ税率を設ける案が、バイデン大統領が10月28日に発表した最新のパッケージで採用された。もっとも、それが実現するメドはまだ立っていない。
いずれにせよ、あまりに過激な資産課税を行政が実行しようとすれば、憲法が規定する財産権の侵害であるとして訴訟が頻発する恐れがある。
日本では、人々の所得に対する課税強化(所得税率の累進性強化・各種控除の見直し)や、相続時の課税強化を通じて、財務省がステルス的に再分配を志向する政策を実行してきている。今回の衆院選で与野党の関心がそのあたりにほとんど向けられていないことに、筆者は違和感も覚えている。
Powered by リゾーム?