発言が揺れているイングランド銀行(BOE)のアンドリュー・ベイリー総裁(写真=代表撮影/ロイター/アフロ)
発言が揺れているイングランド銀行(BOE)のアンドリュー・ベイリー総裁(写真=代表撮影/ロイター/アフロ)

 10月の金融市場では、経済のサプライサイド(供給側)の障害、具体的には半導体不足や人手不足などが足元でインフレ率の急上昇につながっていることに着目した「インフレ懸念→欧米中央銀行による早期利上げ」が大きなテーマになっている。長期金利が米国を中心に上昇。日米金利差が拡大する中で、為替市場では、円安・ドル高が急進行した。

 足元のインフレ率の高さを嫌って中央銀行が政策金利を引き上げても、不足している半導体が供給されたり、大型トラック運転手が生み出されたりするわけではない。したがって、サプライサイドに起因する一過性のインフレ高進に対して利上げをぶつけるのは、本来は間違っている。

 ただし、そうした高い物価上昇率が人々の心理に根付いてしまうと、一過性だったはずの高いインフレ率が持続的なものへと転化する恐れがある。このため、そうしたリスクが強く意識される状況になるなら、インフレ心理を抑え込む狙いからの利上げが一つの選択肢になる。

 そうした金融政策運営上の基本的な考え方については、このコラムで以前にご説明した(10月12日配信「中央銀行の世界に『白サギ』が登場、脱『ペンギン』願望も?」ご参照)。話の続きをここで述べておきたい。

にわかに増えた「スタグフレーション」への言及

 「スタグフレーション(stagflation)」という表現を、内外の経済関連の記事で見かける機会が増えている。これは、一言で言えば「不況下での物価高」のこと。景気が悪い(特に失業率が上昇している)にもかかわらず、何らかの理由で物価が高騰している状況を指す合成語である。

 景気のベクトルが下向きになっている、すなわち景気後退局面(ないしはそれに近い短期的な景気調整局面)にあることが、「スタグフレーションが発生した」と言えるための一般的な条件だと、筆者は認識している。けれども、そこまでは景気が悪化していなくてもこの用語を用いたがる人が、世の中ではそれなりにいるようである。

 英経済紙フィナンシャル・タイムズは10月6日、「中央銀行、スタグフレーションの悪夢に暗中模索(Central banks differ on dispelling nightmare of stagflation)」と題した記事を掲載した。景気減速とインフレ的な供給ショックの組み合わせという悪夢に直面している中央銀行の対応が、それぞれ異なっているとした記事である。

 その中に、「供給ショックから生み出されたインフレに金融引き締めで対応するのは極度に危険だ(extremely dangerous)」という市場関係者のコメントが引用されていた。筆者も同意見である。

 繰り返しになってしまうが、サプライサイドで発生した障害の解消につながらない上に、回復がまだ不十分な需要を押し下げてしまうので、利上げは基本的には妥当な策ではない。

 ただし、期待インフレ率の上方シフト(さらにはそれを受けた賃金増加の加速)に結び付いてしまうと、高インフレが社会に根付いてしまい厄介なので、けん制する狙いからのアナウンスメント効果を強く意識した利上げも、状況次第では選択肢になる。

次ページ ECB理事からは「ヘッジ」する発言も