黒田東彦日銀総裁は、9月7日の日本経済新聞のインタビューで、「円安が経済にどういう影響を与えるか、チャネル(波及経路)が少し変質しているのは事実だ。日本企業の海外生産が増え、かつてのように円安が輸出の数量を増して、成長率を押し上げるという効果は弱くなっているかもしれない。
ただ企業の海外収益の円建て換算への影響は非常に大きくなっている。それで企業は賃上げや設備投資、あるいは配当に動きやすくなる」「日本経済全体に与える円安の効果がなくなってしまったとか、あるいは円高の方が良いとか、そういうことではない」と述べていた。
次の自民党総裁は、就任後1年以内に、2つの大きな国政選挙を戦うことになる。この秋に行われる衆院選と、2022年夏に行われる参院選である。できるだけ有利な経済環境を維持するという観点からは、大幅な円高・株安を招来するような政策運営はタブーに近くなると考えられる。したがって、どの候補が総裁選に勝利し、そのまま次の首相に就任しても、日銀の異次元緩和に対してドラスチックな修正圧力が加わる可能性は、ほとんどない。
そうした中で注目されるのが、日銀総裁・副総裁人事への影響や、物価安定の目標2%を共有することをうたっている政府・日銀の共同声明が修正される可能性である。これらの点はむろん筆者も十分認識していたのだが、日本経済新聞が9月11日に掲載した政治コラム「新首相に託すポスト黒田」が、注目点としてコンファームしてくれた。
まず、日銀総裁・副総裁3人の任期満了が23年3~4月に控えている(総裁は4月8日、副総裁2人は3月19日が任期満了日)。おそらく1年ほど前から後任人事の調整が内々に進められるだろう。現在の構成は、総裁が財務省の出身、副総裁が日銀プロパー1人、リフレ派の学者1人である。次の体制ではどのような布陣になるのかに、金融市場は関心を抱かざるを得ない。
円高リスクを招来しない範囲内で、日銀は異次元緩和を断続的に微調整してきた。その中で、長期国債の買い入れペースは大幅に鈍化し、ETF(株価指数連動型上場投資信託)の買い入れはほとんどなくなり、マイナス金利に対しては地方銀行などへの直接の収益減少方向の影響を「骨抜き」にする政策が重ねられている。
そうした異次元緩和のテクニカルな「微調整」が今後も随時進められていくのか、それとも「再起動」的に金融緩和を強化する動きがいずれ出てくるのか。日銀の人事が大きなカギを握っている。
もう1つが、13年1月22日に出された政府・日銀共同声明をどうするか、内容に修正を加えるのかという問題である。
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