若田部副総裁は、家計に滞留した資金について「下支え要因」という形容にとどめた。その点もあり、若田部副総裁の個人消費に関する見通しは中村審議委員のそれよりもやや慎重だと、筆者は受け止めた。同副総裁は、企業部門については強気だが、家計部門の今後には警戒的な見方をしている印象を受ける。それを裏付けるような形で、挨拶(講演)では待機資金に関する部分の近辺に、以下の文章もあった。

 「家計部門では、依然として感染症に伴う不確実性が消費活動の強い制約となっており、所得から支出への前向きの循環が観察されるには至っていません」

 「このところ世界的に変異株による感染者数の増加が続いており内外経済の動向は予断を許しませんが、感染症の影響が収束に向かえば、前向きの循環が、企業部門だけでなく家計部門へも広がっていくことが期待されます。その上で、さらに経済全体の回復が力強さを増していくためには、家計部門、企業部門それぞれで『待機』している資金の動向がきわめて重要なカギを握ると考えています」

 「待機資金が実際の支出に向かい、支出性向が高まるためには、企業や家計が将来の経済や物価について明るい予想を持つことが重要です」

 さらに、記者会見では若田部副総裁から、景気下振れリスクの関連で、以下の説明があった(日銀HPから引用)。

 「ワクチン接種あるいは新型コロナウイルス感染症の成り行きについては、今回の講演で不確実性ということを強調しましたが、まさに不確実な状況が続いていると思います。私も少し前は、ワクチン接種が進むことによって、経済は回復していくという筋道で描いていましたが、少なくともそこについては下振れリスクがあり、回復という意味では、時期的には後ずれしていくだろうと思います」

 「これは、変異株の影響というものにより、感染が拡大してきたということはあるかと思います。現状、ワクチン接種の効果かとは思いますが、死者数などに関しては、前回のピークほどは増えてはいないようですが、感染が続くことを国民が不安に考えるならば、経済に対してはまだ下押し圧力が続くだろうということです」

追加緩和への言及も……

 同副総裁からは、「仮に下振れリスクが更に顕在化していく、景気が回復どころか底割れするようなことになってくると、当然、政策対応を考えなくてはならないと思います」という、追加緩和の可能性への言及もあった。

 実際には、有効で副作用がほとんどない追加緩和カードは日銀の手元にもはや残っていないというのが金融市場サイドの多数意見なのだが、政策当局者としては立場上、「もはやカードがない」とは口が裂けても言えないだろう。

 上記のように、日銀政策委員会内には今後の国内景気見通しで、一定の温度差があるように見受けられる。なお、金融政策決定会合で追加緩和の議案を毎回出している片岡剛士審議委員の経済見通しは、若田部副総裁よりもさらに慎重なものだろう。

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