地球温暖化を止めようとする政策(気候変動対応)は、短期的には景気にネガティブな影響を及ぼし得る。すでに述べた通り、「車社会」の米国では、ガソリン価格の高騰は、特にドライブシーズンのさなかであれば、増税に等しい影響を個人消費に及ぼす。サマーズ氏の主張に沿ってガソリン価格上昇を容認する、さらには一層の上昇を促すのなら、短期的には景気へのダメージが大きくなっていくだろう。

 一方、より長いタイムフレームで経済への影響を考える、あるいは短期的な景気動向よりも気候変動対応の方が政策的意義の次元が一段高いという認識からすれば、サマーズ氏の主張は正当化し得る。日本のことわざで言えば「損して得取れ」的なイメージか。

 いわゆる「グリーン投資」が景気を押し上げる効果をやや過大にみる向きが現れるなどして、議論が錯綜している様子もあるが、いずれにせよ今回のサマーズ発言は、気候変動に対応する政策が短期的には景気にネガティブな影響を及ぼす場合が十分あり得ることを改めて認識する機会を、提供してくれたと言えるだろう。

 気候変動対応の関連でもう1つ議論の焦点になっているのが、中央銀行によるこの問題への対処の妥当性である。

 筆者は、中央銀行による気候変動への目配りを基本的には容認する立場だが、具体的な施策を展開していく際には「節度」が必要だという見解である(当コラム8月3日配信「日銀が始める『気候変動オペ』に噴出した賛否両論」ご参照)。

 だが、より批判的な立場をとる向きからは、中央銀行が気候変動対応を行うことによって、本来の責務である「物価安定」の実現(インフレ目標の達成)がむしろ困難になりかねないとの厳しい声も出ている。

 実際にそのような行動をとる中央銀行はないだろうが、割り切って言えば、金融引き締めによって景気を悪化させた方が、温暖化ガスの発生を減らすことができる。その一方で、景気が悪化すればインフレ目標の達成は当然のことながら遠のく。このジレンマをどう解決していくつもりなのかという、素朴な疑問である。

 そうした疑問が生じないようにするためには、金融政策運営における優先度を明確にしておく必要がある。すなわち、中央銀行の責務としては「物価安定」(国によってはそれに加えて「最大雇用」)が優先され、「気候変動対応」はあくまでサブテーマだという、はっきりした「序列」である。

 欧州中央銀行(ECB)は、今年結論を出した「戦略見直し」にはっきり盛り込むなどして、気候変動への対応においては日銀やFRBよりも、積極的な姿勢を見せている。

 だが、そのECBにとって実に厳しい調査結果が出てきた。ドイツの欧州経済研究センター(ZEW)が金融の専門家を対象に実施したアンケート調査によると、回答者の過半数は、ECBが政策決定で気候変動問題に配慮しようとすることにより、インフレ目標である2%の達成はより困難になるとの見方を示した。日本のことわざをまた持ち出すと、「あぶはち取らず」的になってしまうことを、この調査の回答者は危惧しているのかもしれない。

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