ところが、その民主党のバイデン政権の経済政策に対して、サマーズ氏は同政権の発足当初から強い批判を浴びせ続けている。大規模な財政出動により、米国の経済を新型コロナウイルスがもたらした危機から脱出させるとともに、老朽化したインフラの再整備、人的資本への投資や社会的弱者への入念な目配りをしていこうというのが、バイデン大統領の掲げる政策方針である。

 しかし、サマーズ氏は財政出動の規模が過大であると主張。足元で一時的な要因などから高くなっている米国のインフレ率は、過度の財政出動によって景気が過熱する中で高止まってしまうだろうと警告している。

 2008年の「リーマン・ショック」に代表される金融危機局面の直後、サマーズ氏は米国経済の見立てとして「長期停滞論」を唱えていた。貯蓄過剰・投資不足の状態へと米国経済は移行し、完全雇用に見合う均衡金利の水準が低下したので、金融緩和による景気刺激は困難になった。したがって財政政策による景気刺激が重要になったとの主張である。

「出し過ぎ」批判を始めたサマーズ氏

 そのサマーズ氏が一転して今度は財政の「出し過ぎ」を批判しているので、市場では違和感を覚えている向きが少なくない。そのこともあってか、ガソリン価格に関するサマーズ発言は市場の材料には全くならなかった。

 サマーズ氏はなぜ、バイデン政権の財政政策運営を執拗に批判するのか。裏読みしている市場関係者には、バイデン大統領の下で財務長官を務めるイエレン氏(米連邦準備理事会[FRB]前議長、女性)への意趣返し的な行動ではないかとみる向きもある。

 オバマ政権の下でバーナンキ氏の次のFRB議長を誰にするかが焦点になった際、サマーズ氏は当初は最有力候補の1人とみられていた。だが、1990年代に金融規制緩和を支持したことや、米ハーバード大学学長時代の女性差別的な発言を理由に、民主党リベラル派(左派)の上院議員らが反対。仮にサマーズ氏を大統領が指名しても上院で承認されるめどが立たなくなり、サマーズ氏は2013年9月15日にFRB議長候補を辞退すると自ら表明。次のFRB議長はイエレン氏に落ち着いたという経緯がある。

 話を戻すと、ガソリン価格高騰を放置するよう促したサマーズ発言は、いま世界の経済政策論議が複雑になっており、やや混線気味であることを象徴しているように思う。