
報道によれば、米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は8月11日に声明を発表し、「ガソリン価格の上昇が放置されれば現在進行中の世界的な景気回復がリスクにさらされる」として、原油の生産量を増やすよう「OPECプラス」(石油輸出国機構[OPEC]加盟国およびロシアなど非加盟の産油国で構成)に対して要請した。
ホワイトハウスは同時に、米連邦取引委員会(FTC)に対し、国内におけるこのところのガソリン価格上昇の背景に違法な取引慣行などがあるかどうかを調査するよう要請した。
ここで米国のガソリン価格の状況を確認しておきたい。米エネルギー情報局(EIA)の週次の統計によると、全米平均のガソリン小売価格は1ガロン=3ドルを超えてもなお緩やかな上昇基調となっており、8月23日時点で3.145ドルである<図>。
この統計で同じ時点の州別の価格を見ると、カリフォルニア州では4.232ドルとなっており、主要都市別では、同州にあるロサンゼルスが4.190ドル、サンフランシスコが4.348ドルと、かなり高くなっている。カリフォルニア州はガソリン税を何度も引き上げてきた。このため、同州のガソリン価格は他の州よりも水準が高い。
経済規模が大きい米国の主要都市の一部に限られるが、エコノミストの間で米国の個人消費に悪影響が出る水準として知られる4ドル台までガソリン価格がすでに上昇していることは無視できないように思う。「車社会」である米国の消費者マインドには、ガソリン価格の高騰によって増税されるに等しい悪影響があり、1ガロン=3.5ドルを超えると「黄信号」、4ドルを超えると「赤信号」がともると、昔からいわれている。
そして、米国ではメモリアルデー(今年は5月31日)からレーバーデー(今年は9月6日)までの期間が「ドライブシーズン」である。自動車に乗って出かける機会が増えるため、(その車がガソリン車の場合は)ガソリン価格の高低が消費行動に影響する。
サリバン補佐官が発した上記の声明は、これまでのところ「空振り」である。ロイター通信は8月16日、原油供給を増やす必要はないとOPECプラスは考えており、米国の要請には応じない公算が大きいとの関係筋の見方を報じた。OPECプラスは7月時点で、協調減産の規模をこの先段階的に縮小する(8月から12月まで毎月日量40万バレルずつ増産する)ことで合意済みであり、次回の協議は9月1日の予定である。
こうした状況下、バイデン政権による上記の動きを8月13日にサマーズ元財務長官が強く批判し、市場で注目された。「化石燃料の消費が地球温暖化を招いているのだから、ガソリン価格の上昇は容認すべきだ」という、大胆な主張である。ブルームバーグテレビジョンのインタビューでサマーズ氏は、バイデン政権は貿易・経済政策を調整して、ガソリンの代わりに他のモノの価格を引き下げるようにすべきだと指摘。「米国の経済において、化石燃料の価格ほど上昇させるべきものはない」とまで、踏み込んで述べた。
サマーズ氏は、28歳の若さでハーバード大学の教授に就任した秀才。世界銀行のチーフエコノミストなどを経て、クリントン政権で財務副長官、財務長官を歴任。オバマ政権では国家経済会議(NEC)委員長を務めた、民主党に所属する人物である。
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