五輪開催に反対するデモも……(写真:AP/アフロ)
五輪開催に反対するデモも……(写真:AP/アフロ)

 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が5月31日の参院決算委員会で東京五輪・パラリンピックに関し、「普通にしていれば人流が増えて接触機会が増えることはほぼ間違いない」「国内での感染拡大リスクに対してどのような対策を取るか、今から考えておいたほうがいい」と発言したあたりから、有観客での五輪開催にこだわっているとみられる菅義偉首相と医療専門家の微妙な距離感が、マスコミで取り沙汰された。

 6月2日の衆院厚生労働委員会で尾身会長はさらに踏み込み、「普通は(五輪開催は)ない。このパンデミック(世界的大流行)で」「そういう状況でやるなら、主催者の責任として開催の規模をできるだけ小さくして、管理の態勢をできるだけ強化するのが義務だ」と述べた。さらに、「何らかの形で考えを伝えるのがプロフェッショナルの責務だ」とも述べて、五輪開催が日本国内の新型コロナウイルス感染状況に与え得る影響について、専門家の評価を明らかにする必要があることを強調した。

 だが、読売新聞が6月上旬に実施した世論調査(調査期間:6月4~6日)の結果を発表したあたりから、世論の風向きは菅首相に有利な方向、すなわち何らかの形での五輪開催容認へと変わっていった。

 この読売調査で出てきた東京五輪・パラリンピック開催問題の回答分布を前回調査(5月7~9日実施)と比べると、中止派が減り、開催派が増えていた。「中止する」は前回の59%から48%に減少。一方、「観客数を制限して開催する」が16%から24%に、「観客を入れずに開催する」が23%から26%に、それぞれ増加した。これら2つの合計(=開催派)は50%で、中止派を僅差で上回った(2%は「答えない」)。

なぜ中止派は劣勢になったのか

 五輪中止論が優勢になっていた世論は、何をきっかけに変わったのか。さまざまな見方があるが、これではないかと筆者が考えているのは、6月1日に報じられたオーストラリアのソフトボール五輪代表チームの来日である。成田空港に到着した代表チームはすぐに事前合宿会場である群馬県太田市に入った。海外のチームが事前合宿で来日したのは、東京五輪開催延期が決まった後では初めてであり、五輪の今度こその開催に向けて世界がしっかり動いていることを、日本人は印象付けられた。

 NHKが実施した世論調査(実施期間:6月11~13日)など、その後に出てきた世論調査も、開催論が優勢という結果になっている。

 尾身会長ら専門家有志は6月18日、東京五輪・パラリンピックは無観客での開催が最も感染リスクが小さいとの評価を盛り込んだ提言を公表した。大会開催の是非に関する言及はなく、先進7カ国首脳会議(G7サミット)で菅首相が五輪開催について各国首脳の支持を得たことから開催すべきかどうかの検討を求める意味がなくなったと判断されたようである。菅首相の「作戦勝ち」といったところか。

 この間、東京五輪の開催あるいは中止がもたらす経済的な影響についても、並行して議論が交わされている。

 「街角景気」を示す指標である景気ウオッチャー調査の5月分が、内閣府から6月8日に発表された。現状判断DI(ディフュージョン・インデックス)が38.1に低下する一方、先行き判断DIは47.6に上昇。発表元である内閣府は先行きについて「感染症の動向を懸念しつつも、ワクチン接種の進展などによる持ち直しへの期待がみられる」とまとめられる、とした。

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