答えを言うと、上記で発言を引用したような金融当局者の厳しい見方に、筆者は賛同している。支払い手段の1つとしていずれかの仮想通貨の利用が将来大きく広がる可能性を排除することまではできないものの、裏付けになるものが存在しない(金のような実物資産の裏付けによる価値の目安も、国や中央銀行の信用も、いずれも欠いている)ので、取引価格は常に不安定なものにならざるを得ず、基本的には価値保全には適さない。
むろん、ある国の通貨の価値がハイパーインフレで大きく下落する場合などに、その国の人が仮想通貨へと資産を移して価値保全を図るケースも考えられるが、それはあくまで緊急避難的な行動ということだろう。仮想通貨には、ボラティリティーの高さゆえに投機的売買に使われやすい面も、むろんある。だが、安定性の欠如に関してはディスアドバンテージの方が大きいと考える。
筆者が機関投資家の方々とのやり取りなどで述べてきた上記の主張と重なり合う論説が、5月22日付の英経済紙フィナンシャル・タイムズに掲載された(和訳は28日付の日本経済新聞朝刊に掲載)。
日銀は、デジタル通貨発行計画なし
これを執筆したケイティ・マーティン氏は、仮想通貨を信奉する人々がいるのは「あらゆる権威から自由」であることも一因で、「真の信奉者にとっては、仮想通貨は生き方そのものだ」と指摘していた。そうした人々がいる限り、ビットコインなどの仮想通貨がこの世から消え去ることはないのだろう。
なお、中央銀行を含む当局者サイドは、既存の何らかの通貨を価値の裏付けとしたうえで、それに連動する形をとっている「ステーブルコイン」についても、否定的なスタンスをとっている。
また、中国に代表されるように「中央銀行デジタル通貨(CBDC)」を発行しようとする動きもあるが、「民間銀行の預金や資金仲介への影響など検討すべき点も多いことなどから、多くの主要中央銀行は慎重な姿勢を維持しています」と、日銀のホームページに書かれている。
民間銀行に預けておくよりも安全だと考えた人々が、CBDCへと大規模に資金シフトをするようだと、金融システムが急に不安定化してしまい、経済全体が大きな混乱に見舞われる恐れがある。そうした事情もあるため、日銀はCBDCの実証実験を段階的に行っていくものの、デジタル通貨を発行する計画はないとしている。
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