岐路に立つ暗号資産(写真:ロイター/アフロ)
岐路に立つ暗号資産(写真:ロイター/アフロ)

 英国の中央銀行であるイングランド銀行のベイリー総裁は5月6日の記者会見で、仮想通貨(暗号資産)について「全ての資金を失う用意があるのなら買えばいい」「私にとってcrypto(暗号)とcurrency(通貨)は一緒になることのない2つの単語だ」「(仮想通貨に)内在する価値はない」と述べるなど、トーンがかなり強い警告を発した。

 他の中央銀行トップからも、仮想通貨に関しては厳しいコメントが出てきている。日銀の黒田東彦総裁が仮想通貨についてどうコメントしたかを、かなり遡って調べてみたところ、2014年3月11日の記者会見において、ビットコイン取引仲介会社経営破綻の関連で仮想通貨についての見解を問われた際、次のように返答していた(日銀ホームページから引用)。

 「通貨とは、誰もがそれを一般的に受け取るということ、その前提として、価値がある程度安定しており、決済の安全性が保証されていることが不可欠だと思います」

「現在のビットコインの状況をみると、価値が非常に大きく変動するうえ、広く一般的な支払いに用いられてはいないようですので、経済的にみると、現時点では、通貨に必要とされる、一般受容性、価値の安定、決済手段としての安全性といった性質を備えているとは言えないように思います」

 「もちろん一般論としては、将来何らかの形でそういう性質を備えるようになるのではという議論はあると思いますが、現時点では少なくとも、ビットコインは通貨に必要とされる性質は備えていないのではと思います。一部の人達の間でボランタリーに、送金や支払いに使われてはいるのでしょうが、一般的な受容性はまだないと思いますので、現在、そうしたものとして私どもはとらえているということです」

 それから7年以上が経過した今年5月12日、米国の有名な電気自動車メーカーのCEO(最高経営責任者)が、それまでは可能だった、仮想通貨の代表格であるビットコインを用いた支払いによるこの会社の車の購入を停止するとSNS(交流サイト)で突然発信した。

電力消費量がネックに

 これをうけて、ビットコインは急落した。停止の理由とされたのは、筆者には意外だったのだが、ビットコインの採掘(マイニング)を行うために大量のコンピューターを稼働させ続けるのに必要な電力消費量の大きさである。このCEO自身は仮想通貨に有望な未来があると信じているものの、化石燃料をもとに発電されている割合がなお大きいため地球環境の面で大きな犠牲が生じるというのが、停止の理由とされた。

 5月の米株式市場では、仮想通貨の大きな値ぶれに連動する形で、ハイテク株を中心に株価が上下動する場面が目立った。

 上記の1週間後である19日の取引も、そうした事例の1つである。朝方にビットコインが前日比約3割下落して3万ドル割れのリスクが意識されると、市場は全般に「リスクオフ」に傾斜し、主要株価指数も急落。ダウ工業株30種平均は下落幅が前日比580ドルを超える場面があった。しかし、ビットコインが4万ドル近くまでその後反発すると、株価指数は下げ幅を縮小した。

 このところの仮想通貨のバブル色の濃い値上がりやその後の乱高下の背景にあるのは、グローバルな「カネあまり」である。超低金利と潤沢な流動性、そしてそうした超金融緩和をこの先もしばらく続けていくと中央銀行がコミットしていることが、市場参加者の強い安心感につながり、金融資産への資金流入が全体に積極化している。価値の裏付けがない仮想通貨もそうした投資マネーのうち足が速いものの流入対象になっており、高所恐怖症的な心理が漂っている場面で悪材料が飛び出すと敏感に反応して急落する、という構図である。

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