その後、自民党の財政再建推進本部は5月20日に、財政健全化目標を堅持することが必要だとする提言案をまとめた。ブルームバーグ通信などが詳しく報じたところによると、提言案には、次のような内容が含まれた。

「財政余力を確保し次世代の選択肢を奪わないことが政治の責任」
「財政の持続可能性に対する国民の信認がないと消費が抑制され、経済を下押し」
「2%インフレ目標実現後は金融緩和の出口に向かわざるを得ない」
「金利は一定程度上昇が避けられず、国は利払い費の増大に直面する」
「金利を人為的に抑え込めば、経済社会に様々なひずみを生じさせる」
「日本国債の格下げは日本企業の資金調達コストを高め、競争力を低下させる」
「赤字国債を中銀が買い支え財政支出を拡大した場合、通貨への信認が問題に」
「短期国債の大幅増は財政構造をさらに脆弱化させる効果」

 だが、コロナ危機への対応で、グローバルに中央銀行による国債の大量購入という実態としての財政ファイナンス(国債引き受け)をするようになった中で、為替市場で日本円という通貨だけが財政規律の緩さを指弾されて売り込まれる「悪い円安」シナリオの実現可能性は、以前よりも低下していると言わざるを得ない。

 また、日銀が掲げる「物価安定の目標」の2%という数字は、日本経済の実力やこれまでの物価動向に裏付けられた人々の物価観、デジタル化などからグローバルに物価に加わっている構造的な下押し圧力などを鑑みると、いつまでたっても達成されない可能性が高い。

迫力を欠く自民党の提言案

 したがって、上記の提言案の内容に含まれている「2%インフレ目標実現後は金融緩和の出口に向かわざるを得ない」「金利は一定程度上昇が避けられず、国は利払い費の増大に直面する」という部分の主張はありていに言えば、迫力を欠いている。

 25年度までのプライマリーバランスの黒字化目標に関しては、6月の「骨太の方針」で「25年度」は明記されない可能性があると、直近では報じられている。上記の自民党財政再建推進本部の提言は、健全化目標の堅持を唱えながらも、「25年度」という具体的な時期には触れていない。5月21日付の朝日新聞によると、経済財政諮問会議でも財政健全化の議論は低調で、内閣府幹部は「目標にあえて触れる必要はない」と話しているという。

 財政健全化の看板は掲げ続けても、それに政府がコミットする度合いは明らかに弱まっている。そして、そうした状況を憂える雰囲気が内外で感じられず、これはかつての財政黒字国オーストラリアも例外ではない。

 こうした現状をどう受け止めるか。筆者は古い世代に属するので、「借りたお金を返すのは当たり前のプリンシプル(原理原則)」だと考えている。だが、そうしたプリンシプルに沿った重い宿題に真正面から取り組もうとはせずに「何とか楽ができないか」と考える人が増えていることだけは、間違いなさそうである。

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