バイデン米大統領の就任で、世界のパワーバランスに変化が(写真:AP/アフロ)

 同盟国との協調や基本的人権・民主主義といった価値観を重視するバイデン氏が米国の大統領に就任したことで、国際秩序にさまざまな動きが出てきている。ここでは、足元で注目されている地政学リスクをいくつか取り上げた上で、筆者の見解をお伝えしたい。

(1)「イランvs.イスラエル」
 核開発問題の当事国であるイランの中部ナタンズにある核施設で、電気系統の問題が4月11日に発生し、同国の原子力庁長官がこれはテロだという見方を示した。イランと敵対しているイスラエルの公共放送は情報筋の話として、同国の対外特務機関であるモサドが実施したサイバー攻撃だと報じた。米紙ニューヨーク・タイムズは情報当局者の話として、大規模な爆発により地下にある、遠心分離機に電力を供給する内部システムが完全に破壊されたと伝えた。

 この施設では昨年7月に爆発が発生しており、ウラン濃縮に使う遠心分離機の開発・組み立てに使っていた建物が損壊したが、これはイスラエルが関与した破壊工作だったと、イラン原子力庁ではみている。

 イランのザリフ外相は翌12日、「シオニスト(イスラエル)は、イランの制裁解除に向けた進展に報復したがっている。われわれも報復する」と明言した。一方、イスラエルのネタニヤフ首相は同日、オースティン米国防長官と会談後、「イランは核兵器獲得を諦めず、イスラエルの壊滅を求めている。核の能力を獲得するのを許さない」と述べた。

トランプ大統領退場の余波

 イランをことさら敵視し、イスラエルに対してはフレンドリーな姿勢をとっていたトランプ氏がホワイトハウスを去り、バイデン氏が米国の大統領になった。核合意へのイラン復帰を模索する当事国の協議に、米国も間接的に加わっている。ナタンズで起きた上記の事件がこの協議に悪影響を及ぼすことが危惧されている。

 ザリフ外相が言及した「報復」は、これまでのところ、2つの動きとして表れている。

 1つは、濃縮度を60%に引き上げたウランの製造である。イランのロウハニ大統領は14日、60%への濃縮度引き上げは「イスラエルの悪意に対する反応だ」と述べた。ウラン濃縮度を60%に高めれば、核爆弾製造に必要な90%超への濃縮度引き上げは比較的容易とされている。イランは核兵器を開発する意図はなく、あくまで平和目的だとしているが、濃縮度引き上げは一種のブラフになり、中東地域の緊張度を高める。核合意復帰の交渉で米欧から経済制裁の早期解除という譲歩を引き出すテコにする狙いもありそうだ。

 もう1つは、日本ではあまり報じられなかったが、イスラエル関連の民間船舶への攻撃である。4月13日に、アラブ首長国連邦(UAE)の沖合の公海上で、イスラエル人実業家が所有権の一部を有し、日本の大手海運会社がリースしている車両輸送船が攻撃を受けた。人的な被害はなく、物的な損害も軽微。イスラエル治安当局筋は、この攻撃はイランが計画する報復の第1弾だと述べて、警戒感を示した。

 イスラエルとイランの開戦によって新たな中東戦争が勃発するリスクは、長い間いわれ続けてきた。だが、イランは現在、国内での新型コロナウイルス感染拡大で苦しんでいる。一方、コロナワクチン接種が順調に進んでいるイスラエルには、公衆衛生面でもイランに対して優位に立っているという自信があるだろう。

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