日銀は今回、事前にマスコミの観測報道が出ていた通り、「年間約6兆円」という原則的な目標額を削除し、上限である「年間約12兆円」を残した。これにより今後は、カレンダー上でどこか連続した12カ月間を取り出してETF買い入れ実績を足し合わせてみても6兆円には遠く及ばない状況が、正当化されることになった。また、4月からはTOPIX連動型のETFのみが買い入れ対象になることも決まった(日経平均株価連動型などは除外)。

 こうした日銀の決定内容は東京株式市場で素直に悪材料とみなされ、日経平均株価は3月24日にかけて大幅に4日続落となった。

(3)マイナス金利深掘り余地の明確化

 何らかの大きなショックがこの先加わった場合でも、マイナス金利の深掘り(日銀当座預金残高の一部にチャージしている金利であるマイナス0.1%からのマイナス幅拡大)という追加緩和カードが日銀の手元にはまだある、「丸裸」というわけではないと市場に念押しする狙いから、金融機関の収益圧迫というマイナス金利がもたらしている副作用への対策として、「貸出促進付利制度」を日銀は創設した。貸し出し促進のための資金供給の残高に応じて付利する制度である。

 だが、市場金利が日銀の追加緩和を受けて大きく低下する場合に銀行と顧客の間の融資条件交渉で貸し手側が著しく不利になり、貸出金利に強い押し下げ圧力が加わること自体への効果は、日銀が打ち出した対策では乏しいと判断される。「貸出促進付利制度」は、マイナス金利の深掘りが可能であるかのように見せるための一種の仕掛けの範ちゅうであり、実際にマイナス金利を深掘りするのは極めて困難だというのが、筆者の見解である。

 さて、今回の金融政策決定会合終了後に日銀が公表した文書は、「より効果的で持続的な金融緩和について」という題名になっていた。金融政策についての決定事項と、緩和策「点検」関連の根幹部分が、一体になったものである。

 会合結果を記した本体部分に加えて、(別紙1)「より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検」の基本的見解、(別紙2)「貸出促進付利制度の概要」、(別紙3)「経済・物価の現状と見通し」という構成である。展望レポート(基本的見解)の公表時のように、「点検」の結果(上記で言えば別紙1と2)は金融政策についての決定事項とは別建てのペーパーになるだろうとみていた筆者には、意外だった。

 上記文書の英語版を見ると、タイトルは、“Further Effective and Sustainable Monetary Easing” である。海外の投資家がこの英文のタイトルだけを見るなら、日銀による追加緩和が決まったのかと、誤解してしまう人もいそうである。少なくとも、AI(人工知能)によるテキストマイニングを経て自動売買するプログラムが、日銀による今回の緩和策「点検」を金融引き締め方向の措置と解釈して円買い注文などを出すリスクは、小さいと考えられる。

 実は、18年7月に日銀が長期金利の変動許容幅を拡大し、ETF買い入れについては「市場の状況に応じて、買い入れ額は上下に変動し得るものとする」と決定した際も、同じようなことが起きていた。金融政策の決定事項を記した文書のタイトルは「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」。英語版は“Strengthening the Framework for Continuous Powerful Monetary Easing”である。このときには、日銀が英語版のタイトルを先に決めた後で、日本語版のそれが決められたという話が流れた。

 日銀がこのように英語での発信に神経を使うのはなぜか。最も恐れているのは今も昔も、為替市場における円高の進行だと推測される。

次ページ だらだら続く、勝算のない長期戦