そうした中で出てきたのが、ワクチンが南アの変異種に有効でないかもしれないとの衝撃的な発言である。英政府のワクチン・タスクフォースのメンバーであるオックスフォード大学のジョン・ベル教授は1月3日、ワクチンは英国の変異種には効果があると思うが、南アの変異種への効果には「大きな疑問符」が付くと述べた。

 もっとも、効かない場合は新たなワクチンを作り出す必要があるが、それには1年はかからず、1カ月か6週間程度で可能だという(ロイター通信)。いずれにせよ、「変異種発見→新たなワクチン接種」というルートでも、ウイルスとの闘いは長引くと考えられる。

 産経新聞は1月11日の朝刊1面トップで、新型コロナウイルスの変異種の流入により日本国内でも数カ月後に爆発的な感染拡大が起きる可能性が高いという、東京大学大学院の飯野雄一教授(生物科学)のシミュレーション結果を紹介した。

 世界の国別の新型コロナウイルス感染者数を、毎週初めに筆者は定点観測しているのだが、足元で目に付くのは米国や欧州における増加ペースの加速である。英国のように、感染拡大阻止策を随時強化している国が多いはずだが、増加ペースが衰えてこない。変異種の感染力が相当強いため、これまでと同じように「ブレーキ」を踏んでも利かなくなっている恐れがある。

 さて、中国の動向である。強権的な施策によってウイルス封じ込めに一足早く成功し、景気回復でも米欧に先行しているとみられてきた中国だが、ここにきて気になる報道もある。最近の主な動きを時系列で見ておくと、以下のようになる。

中国で相次ぐ気になる動き

  • ◇20年12月22日、大連市の衛生当局が会見し、新型コロナウイルス感染拡大を受けて都市間の移動を制限するとともに、市内全域で大規模なPCR検査を行うと発表。

  • ◇すでに述べた通り12月24日に、英国から帰国した上海の女子学生から新型コロナウイルスの変異種が中国で初めて検出された。

  • ◇12月31日、中国の国家薬品監督管理局は記者会見で、同国製薬大手企業傘下の研究所が開発した新型コロナウイルスのワクチンを承認したと発表。

  • ◇河北省の省都・石家荘市は21年1月7日から、住民の市外への移動を禁じる都市封鎖を実施。8日には約1000万人の市民全員に対し、緊急PCR検査後の1週間の外出禁止を通知した。石家荘市は北京から南西に約300kmの位置にある。同市の幹部は9日に記者会見し、この緊急検査の結果、354人が陽性だったと発表。ウイルスの潜伏期を考慮し、2回目のPCR検査を実施して感染を徹底的に抑えると強調した。

  • ◇中国政府は1月14日、前日13日に河北省で新型コロナウイルス感染症により1名が死亡したと発表した。中国における死亡者発生は昨年5月以来約8カ月ぶり(注:昨年4月以来とする報道もある)。河北省と黒竜江省を中心に、このウイルスへの感染者数が増加している。

 中国の人々にとって重要な春節(旧正月)が今年は2月12日に控えており、同月11日から17日までの7日間が春節の休暇になる。例年、人々の大移動が行われる時期である。言うまでもないことだが、人が動けば、ウイルス感染が拡大しやすくなる。

 人民日報(日本語版)が報じたところによると、2020年12月15日に感染リスクの高いグループへの新型コロナウイルスのワクチン接種が正式に始まって以降、中国全土ですでに約750万人が接種しており、それ以前に終えた医療関係者らの約160万人を加えれば900万人以上になると、1月9日に当局者が説明した。中国政府は春節よりも前にワクチン接種をさらに大規模に実施したい考えのようだが、残された時間は限られている。

 「モグラたたき」のように、感染者が増えた都市に強力な都市封鎖を次々とかけていく手法も考えられるが、そうした都市の数が増えれば増えるほど、景気の回復が腰折れしてしまう確率は高くなっていく。

楽観論に基づく見通しは危うい

 北京、天津、上海、河北省など20以上の市や省が住民に対し、「今いる場所で春節を迎えるように」と呼びかけている。人の移動をできるだけ少なくしようというキャンペーンである。

 1月11日のロンドン金属取引所(LME)で、銅の先物が急落した。トレーダーの一人によると「かなりの量の利食い売りが出て、ロングが手じまいされた。ドル(の上昇)や中国での新型コロナウイルスの感染(増加)が引き金となり、売りが膨らんだ」という(ロイター通信)。景気の先行きを敏感に察知するため「ドクター・カッパー(copper=銅)」との異名もある銅の先物は、中国経済にまつわるリスクを嗅ぎつけて動き始めたようである。

 内外の当局者は最近、「今回のウイルスに有効なワクチンの接種が進めば」という大前提で将来の経済見通しを楽観的に語ることが少なくない。

 だが、「今、火事が起こっており、火の勢いが増しているにもかかわらず、無事に鎮火した後のことを明るく語り続ける」かのような姿勢には、少なからず違和感が漂う。安易な楽観論は危うい。

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