新型コロナウイルスがもたらした今回の新たなタイプの危機は、有効な「ワクチン・特効薬」が出来上がり普及するかどうかが、収束に向けての最大のカギである。世界中で予防接種されて抗体保有者の割合が65~70%以上の「集団免疫」の状況になれば、危機は終息に向かうだろう。アストラゼネカが英オックスフォード大学と共同開発中のワクチンは、接種一回当たり3~4ドルと単価が安くなりそうであり、しかも普通の冷蔵庫の温度(2~8度)で保管できるため、財政力やインフラが脆弱な発展途上国でも予防接種を広く実施していく狙いに適している。

 とはいえ、これらのワクチンが「ゲームチェンジャー」となり、危機がそのまま波乱なしに収束に向かっていくとまで楽観視するのは危うい。抗体の持続性に加えて、あるいはそれ以上に気になるのは、ワクチンの接種率が実際にどこまで高くなるのかである。

ワクチンがゲームチェンジャーになる条件

 日本では1994年に予防接種法が改正されて、予防接種は義務ではなく、単なる「努力義務」になっている。新型コロナウイルスへの対応においても、加藤勝信官房長官が11月19日の記者会見で「接種するかどうかは最終的に一人ひとりが自ら選択することになる」と述べたことから考えて、義務化するつもりは政府にはないようである。

 異例のスピードで開発されたワクチンは、安全性(人により副作用が出るかどうかなど)において、未知の部分が大きい。したがって、不安心理にとらわれた人々(特に高齢者層)が、当面は予防接種を受けずに様子を見ることが、十分想定し得る。そしてその様子見期間のうちに、副作用の重い事例が報じられると、接種率は上がりにくくなるだろう。

 米国では、国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長が、基礎疾患のない一般の人々へのワクチン接種開始は来年(2021年)4月ごろになる見込みだと発言した。また、ホワイトハウスでワクチン配布を担当するモンセフ・スラウイ氏は11月22日にCNNに出演し、来年5月ごろには人口の70%ほどが免疫を獲得して生活が正常に戻りそうだと述べた。

 けれども、米国の場合も、予防接種を受けるかどうかを決める上で、いったん様子見をしたい人が多いようである。

 米経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルと米NBCが実施して10月半ばに結果を発表した世論調査で、ワクチンの接種を利用可能になり次第受けるという回答は20%にとどまり、約半数がより詳しい情報を得られるまで接種を待ちたいとした。一切接種しない人が17%、義務化された場合のみ接種するという人が10%だった。

 また、米ギャラップが11月17日に結果を発表した世論調査では、ワクチン接種に前向きな回答は58%止まりだった。

7~8割の人が接種する必要

 ファウチ所長はオンライン講演会の席上、「7~8割の人が受けなければパンデミック(世界的な大流行)はなくならない」と述べて、警鐘を鳴らした(11月18日付 日本経済新聞夕刊)。

 新興国でも、ワクチン接種がなかなか進まなそうな調査結果が出ている。共同通信によると、ロシアで10月中旬に実施された世論調査では、自国で開発され8月に承認を受けたワクチンを「接種しない」との回答が59%で、「接種する」は36%だった。

 官製色の濃い「カネあまり」を足場に、ワクチンを材料にして、株価は内外で大きく上昇している。だが、「集団免疫」に至るには、接種率を高くするというハードルを越えなければならない。来年春以降の内外でのワクチン接種状況を、十分注視していく必要がある。

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