中国人民元の対ドル相場が堅調に推移する場面がこのところ目立っており、世界経済の順調な回復にベットする「リフレトレード」の象徴のようにもなっている。10月21日の上海市場では一時1ドル=6.64元台に乗せた(18年7月以来の元高ドル安水準)(図1)。

■図1:中国人民元の対ドル相場
■図1:中国人民元の対ドル相場
(出所)中国人民銀行
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 人民元の金利がドルよりも高いことが、元相場の強い動きを支えている。それに加えて、中国がコロナ禍からいち早く脱して景気指標が改善を続けていること、そうした中で中国人民銀行が人民元の対ドル相場の基準値設定で緩やかな元高を容認する姿勢を見せていることも、指摘することができる。これは、当面の景気回復に中国当局が自信を持っている表れだろう。

 中国の7~9月期の実質GDP(国内総生産)は前年同期比+4.9%で、2四半期連続のプラスになった。劉鶴副首相は10月21日のフォーラムで、中国の今年の成長率はプラスになる公算が非常に大きいと述べた。

 同じ10月21日には、ロンドン金属取引所(LME)上場の銅先物が一時1トン=7000ドルの大台に乗せる場面もあった。チリの鉱山におけるストライキに加えて、中国の景気回復による需要増大の思惑や人民元高も支援材料になった。需給が景気に敏感である銅の値動きは、「ドクター・カッパー(銅)」と呼ばれることがあり、世界経済の動き方の先行指標とされている。

 とはいえ、中国経済の今後の回復について、過度に楽観視すべきではあるまい。冷静に考えると、今般の中国経済の回復は弱点を内包している。いくつか指摘しておきたい。

 中国の国慶節(建国記念日)に合わせた10月1日から8日間の大型連休。この連休が始まる直前、「国内旅行で6億人が移動する見通し」とされた。中国文化観光省の8日の発表によると、結果は6億3700万人。驚くべき数字ではあるものの、前年同期比ではマイナス21%。国内観光収入は同マイナス30.1%になった。国外ではコロナ禍が続いているので、海外旅行が実質的に大きく制限されたにもかかわらず、こうした数字である。中国の輸出は9月まで4カ月連続で前年同月比プラスになっているけれども、上記の事例が示している通り、国内の需要の回復力は、これまでのところ不十分である。

 また、中国とは違ってコロナ禍から脱していない、米国やEU(欧州連合)を含む世界のかなり多くの地域では、経済成長が弱くなっているので、中国の輸出がこの先伸びる余地はどうしても限られてくる。米国との間では貿易戦争も続いている。

 さらに言えば、新型コロナウイルスに有効な信頼できるワクチンが開発されて普及するに至っていない現状、中国経済の「独り勝ち」は、国境を越える人の行き来を強く制限しているが故に実現しているものにすぎない。

 従って、中国が「世界経済の救世主」になるのではといった幻想は、抱かない方がよいだろう。筆者はそのように慎重にみている。

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