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ハンコは本当になくなるのか(写真:AP/アフロ)

 発足して1カ月あまりが経過した菅義偉内閣の現在の看板政策は、「携帯電話通信料引き下げ」「不妊治療への公的支援強化」「デジタル庁創設」の3つだろう。個別マターで実績を積み重ねた上で、新型コロナウイルスの感染拡大状況をにらみつつ、年明け以降に解散総選挙のタイミングを探る考えであるように見える。マクロ経済政策では「アベノミクスの継承」を唱えつつ、ミクロの課題解決に注力していこうとする道筋である。

 そうした中で1つ、身近な話題にもなっているのが、「ハンコ廃止」の動きである。河野太郎行政改革担当相が旗を振っており、役所の旧弊打破に向けた迅速な動きには、匿名の元官僚からもSNS(交流サイト)上で称賛のコメントが出ている。直近のマスコミによる世論調査を見ると、朝日新聞の調査で半数を上回る55%が「脱ハンコ」に賛成と回答。読売新聞の調査では、「評価する」が28.5%、「ある程度評価する」が40.4%という結果が出ている。

 筆者も社会人駆け出しの2年間の国家公務員時代に、官公庁の文書におけるハンコの多さに驚かされた経験がある。課内のちょっとした回覧物にも、課員一人ひとりがハンコを押す枠が並んだ紙が添付されており、読み終えると押印して次の人に回す仕組みだった。

「印鑑は命より大事」

 その後、大手都市銀行に転職したところ、ハンコの種類こそ違ったが(官公庁は硬いハンコで、銀行はインクを補充する形式のゴム印)、両者のカルチャーがいかに似ているかを実感したものである。それからすでに30年以上が経過した現在は、デジタル化で民間金融界が先行し、官公庁がそれになんとか追いつこうとするといった様相を呈している。

 毎日新聞の10月8日付朝刊で投書欄をたまたま読んでいたら、昔の銀行の「ハンコ至上主義」に関する驚くべき体験談が載っていた。静岡県沼津市の73歳の男性からの投書なのだが、1970年、地方銀行に就職した新入社員の頃、仕事中に小用のため印鑑を置いたままで席を立ったという。だが、席に戻ってみると印鑑がない。すると上司がこの新入社員の印鑑を手にしながら、「銀行員にとって、印鑑は命より大事」と言ったのだという。それから50年で、銀行の様子も大きく変わった。