話を元に戻すと、このアンケート結果が中央銀行パーソンに突きつけている「不都合な真実」は、インフレ目標の数字などを中央銀行ががんばってアナウンスしても、そうしたニュースが国民のところになかなか届かず、届いても理解されないのが現実だということである。「笛吹けども踊らず」どころか、「笛吹けども聞かれず」「笛吹けども理解されず」ということだ。

 これは、安倍晋三前首相による「レジームチェンジ」を経た後の黒田東彦総裁率いる日銀が、異次元緩和を続けてきた中で、痛感せざるを得なかったことでもある。

世間に認知されていない日銀

 日銀が毎四半期実施している「生活意識に関するアンケート調査」の第82回調査(直近6月調査)で、「日本銀行が、消費者物価の前年比上昇率2%の『物価安定の目標』を掲げている」ことの認知度は、「知っている」(19.5%)、「見聞きしたことはあるが、よく知らない」(31.0%)、「見聞きしたことがない」(48.9%)などといった、日銀にとっては極めて厳しい回答分布である。

 また、9月21日には米議会予算局(CBO)から、新型コロナウイルス対策の大規模財政出動に加え、高齢化による社会保障負担の増加や、FRBによる利上げを前提とする国債利払い費の増加で、連邦政府債務の名目国内総生産(GDP)比は2050年度までに195.2%に達する見込みだという、厳しい報告書が出てきた。

 米国の政府債務が名目GDPの2倍に迫るならば、それはすでに2倍を超えている日本への接近でもある。それを避けようとするなら、FRBが利上げをせず、長短金利を低水準にロックし続けて、国債利払い費の増加をできるだけ抑え込むことが1つの方策になる。これは金融政策の財政政策に対する「従属」にほかならず、日銀は公には決して認めないが、外形的には日本で以前から起きていることである。

 このように見てくると、米国のゼロ金利政策(図1)や量的緩和を解除するのは難しく、経済の構造変化が加味されていない、2%という高すぎるインフレ目標を掲げたまま、この超金融緩和は日銀の異次元緩和と同様、事実上「エンドレス」だという結論になる。
 では、FRBがゼロ金利政策で「持久戦」を続けるのみならず、日銀のように政策金利をマイナスにする(マイナス金利を導入する)ことはないのだろうか。

■図1:米国の主要政策金利
■図1:米国の主要政策金利
(出所)FRB
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 この点に関して市場の一部の関心を集めているのが、オセアニアの2つの中央銀行による最近の動きである。

 これらの中央銀行は、新型コロナウイルス感染拡大に伴う危機が発生するよりも前、19年7月末のFRB利下げ局面開始よりも少し前のタイミングで、物価目標および最大雇用の達成に向けて必要な措置として利下げを開始し、「先行指標」的な役回りを演じた。筆者は当時、ニュージーランド準備銀行(RBNZ)による19年5月の利下げ開始や、オーストラリア準備銀行(RBA)による同年6月の利下げ開始への注意を喚起しつつ、FRBの利下げ開始は近いと予想するリポートを発信した経緯がある。これら3つの中央銀行は、「物価安定」と「最大雇用」の2つを責務としている点が共通している。

 その後、新型コロナへの対応で上記の中央銀行3つはいずれも金融緩和の強化に動き、主要政策金利の水準は一段と下がった。現在、FRBのFFレート誘導水準は0~0.25%、RBNZのオフィシャルキャッシュレート(OCR)は0.25%、RBAのキャッシュレートも0.25%(さらに3年物国債利回りに0.25%近辺のターゲットを設定)である(図2)。

■図2:オーストラリアとニュージーランドの主要政策金利
■図2:オーストラリアとニュージーランドの主要政策金利
(出所)RBA、RBNZ
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 オーストラリアでは、今年4~6月期の実質国内総生産(GDP)が前期比マイナス7.0%になり、2四半期連続のマイナス成長を記録。91年7~9月期から28年以上続いた「景気後退(リセッション)なし」の記録が途切れた。

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