
筆者は30年以上にわたって内外の金融市場を見続けているが、最近痛切に感じるのは、日本の後を追う形で米国でも、債券市場が狭いレンジ内で上下動するばかりで活気のない「終わった」状態になってしまったということである。「UST(米国債)のJGB(日本国債)化」が起こっており、その根底には「米連邦準備理事会(FRB)の日銀化」があると言えるだろう。
米国のクリーブランド地区連邦準備銀行が9月18日に発表したワーキングペーパー「平均インフレ目標と家計の期待(Average Inflation Targeting and Household Expectations)」は、追加の金融緩和手段で手詰まりになったFRBが、日銀と同じ道筋をたどっていることを、あらためて印象付ける内容になった。
8月27日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)は、インフレ目標である2%を緩やかに超える物価の上昇を容認する新しい指針を決定した。ジェローム・パウエルFRB議長は同じ日の講演で、この新指針の米国民への周知徹底を図った。
だが、そうしたニュースに接して、それを記憶し、自らの行動の基軸にするような一般のアメリカ人が極めてまれであることは、日本にいても容易に想像がつく。上記のワーキングペーパーについて報じたロイター通信の記事(日本語版)はその内容を、次のように的確に要約していた。
国民から努力を認められないFRB
「FRBは、新戦略が人々に深く理解され、将来的にインフレ率が押し上げられると期待しているが、クリーブランド地区連銀が新戦略発表の前日、当日、翌日に無作為抽出方式で実施した調査で示された答えは『ノー』。調査チームは『パウエルFRB議長の講演は大部分の一般国民に届かなかったか、印象を残さなかった』とし、このニュースに触れた人でもほとんど影響を受けず、FRBとインフレに関する見方は『事実上変わらなかった』と指摘。このことは、理論で示される経済的な恩恵の多くは新戦略の下で受けられないことを示唆しているとした」
「調査では、FRBが担う2つの責務についても一般国民の間で誤解されていることが判明。(中略)調査では大部分の人が、FRBはドル高を追求し、連邦政府のために借り入れコストを低水準に抑えていると回答した」
ちなみに、FRBが負っている2つの責務(物価安定および最大雇用)に関する設問への回答(2つまで選択可)では、「物価安定を確かなものにする」という正しい選択肢と、「強いドルの維持」「政府の借り入れコストを抑えるため金利を低位に保つ」という間違った選択肢2つ、合計3つが、回答日により差はあるものの、おおむね3割前後の回答を集めた。
もう1つの正しい答えである「最大雇用促進」は20%台。次いで、「株価を高い水準に保つ」や「経済的な不均衡を減らす」などが10%台だった。米国で大きな社会問題になっている不均衡を、雇用の面から極力少なくしようというのは、FRBの新指針の大きな狙いとされている。また、不均衡の是正はバイデン米民主党大統領候補が前面に出していることでもある。だが、金融政策による不均衡是正の実現は、どうしても限界のある話である。
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