国債を大量に買い入れて長期金利を押し下げる日銀の異次元緩和には、債券相場が財政悪化に対して発するはずの警告シグナルを消し去ることを通じて、財政規律を弛緩(しかん)させる副作用がある。

 では、菅新首相は日銀の金融政策をどのように見ているのだろうか。この点を確認するため、第2次安倍内閣発足以降の菅氏の関連発言を集めた「語録」を筆者は作成してみたのだが、出てきた結論は黒田東彦日銀総裁のかじ取りへの強い信頼感という、当たり前のものだった。

 たとえば、任期満了が近づき再任の有無が焦点になっていた黒田総裁について。「安倍政権の重要課題の1つであるデフレ脱却に向けて強い決意を持って取り組んでいる」と、17年6月7日の記者会見で発言。同総裁再任が決まった後には、「実績や資質の高さを踏まえ、引き続き金融政策のかじ取りを任せるのが最適だと判断した」と、18年2月16日の記者会見でコメントしていた。

 黒田総裁が率いる日銀の金融政策運営への信頼感に加えて、為替市場で円高が進行することへの強い警戒感(状況次第では為替介入も辞さない強い姿勢)も、菅氏の過去の発言内容から浮かび上がる点である。

 その関連では、為替市場における円高への対応が「首相官邸マター」に格上げされて、為替市場における介入が準備された一幕が16年4月にあったことが、すでに明らかになっている(軽部謙介著『ドキュメント 強権の経済政策――官僚たちのアベノミクス 2』岩波新書)。日銀の金融政策は次期首相の下でもそのまま継続となる公算が大きいが、為替の円高対応に関しては注意が必要である。

 9月23日には黒田日銀総裁が首相官邸を訪れて菅首相と面談し、意見を交換した。日本が祝日だった21日のロンドン市場では、欧州における新型コロナウイルス感染再拡大を材料にドル円相場が円高・ドル安に動き、一時104円ちょうどをつける場面があった。日本政府と日銀の連携がしっかり続いていることを海外投資家に対してデモンストレートする狙いがあったと推測される。

 そして、マーケットが大いに注目しているのが、解散総選挙の時期である。

 9月16日、首相就任後初の記者会見で菅氏は、「新しい内閣に国民が期待し、求めていることは、新型コロナウイルスの感染を何とか早く収束させ、同時に経済をしっかり立て直すことだ。感染拡大防止と経済の両立にまず全力を挙げて取り組み、一人ひとりが安心して元通りに生活できることを一刻も早く実現したい」としつつも、「いずれにせよ1年以内に衆議院は解散総選挙がある。時間の制約も視野に入れながら考えていきたい」と述べていた。

 菅首相は、マキャベリストであり権力欲があると評されることもある政治家である。また、安倍内閣で長い間官房長官として政策全般の実務を取り仕切り、リスクマネジメントにも注力してきた。そうした中で菅氏は「リアリスト(現実主義者)」としての側面を強く持っているのではないかと、筆者は見ている。

解散総選挙は新型コロナウイルス次第か

 解散総選挙という問題についても、ただ単に「野党が弱いから選挙で勝つなら今だ」というような理由からあわてて解散に動くのではなく、菅氏自身が言及しているように、新型コロナウイルスの感染状況について専門家が「完全に下火になってきた」という判断を下すようになってから、熟慮を経て、解散するかどうかを決めるのではないか。

 とはいえ、そうした判断を下すまでには、政治的な求心力を維持する必要性もあるため、菅氏は首相として「伝家の宝刀」である解散権を行使することに含みを持たせる発言も、随時していくと予想される。

 菅氏の9月に入ってからの発言を整理していて筆者が最も印象に残ったのは、9月5日に国会内であった共同通信のインタビューで飛び出した、「新政権は暫定ではない。自信を持って堂々と務めるべきで、それが国民への責務だ」という発言である。

 この発言について共同通信は、「新総裁は安倍晋三首相の残り任期を務めるため、来年9月に再び総裁選が実施される。暫定政権を巡る菅氏の発言は、後継首相が約1年間のつなぎだとする党内一部の見方を否定した形だ」と解説した。単なるワンポイントリリーフではなく、長いイニングを投げて実績を積み重ねていく政権にしたいというのが、菅氏の考えなのだろう。

 とすれば、どこかで衆院を解散して総選挙で勝利を収め、来年9月の自民党総裁選で無投票再選される流れをつくる必要がある。新型コロナウイルス問題が来年初めにかけてそれなりに落ち着いてくるようだと、早期解散総選挙の確率は50%以上へと一気に跳ね上がるだろう。

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