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 大いに問題となるのは、選挙結果が「バイデン勝利」と出た場合だ。その結果は不正に基づくものだと主張して、来年1月20日になってもトランプ氏がホワイトハウスに居座り続けることも考えられ、大いに波乱含みである。

 日本のメディアも次のように報じている。

 「トランプ氏は(8月)17日にウィスコンシン州で演説し、『もし負けるとしたら不正があった時だけだ』と断言。選挙結果を受け入れない可能性を懸念する声も高まっている」(8月26日付毎日新聞朝刊)

 「『大統領が選挙に信頼性がないと明言するなんて前代未聞だ。大敗してもトランプ氏が選挙結果を受け入れるのか、私は確信が持てない』。米世論調査の専門家、ジョン・ゾグビー氏は懸念する」(9月1日付日本経済新聞)

 米民主党のクライバーン下院院内幹事は8月2日、トランプ大統領には選挙で敗れても権力を「平和的に」移行するつもりはないとの見方を示した。CNNの番組「ステート・オブ・ザ・ユニオン」でクライバーン氏は、トランプ氏にはホワイトハウスを去るつもりも、「公正かつ自由な選挙」をする意志もないと批判した上で、「大統領職に居座り続けるために何らかの緊急手段」を彼は考えているはずだと警告。「だからこそ、米国民は目を覚ました方がいい」と述べた(8月3日配信ブルームバーグ日本語ニュース)。

 また一部の米退役軍人が、トランプ大統領が選挙で負けても「フェイクニュース」とみなして退任を拒んだうえ居座った場合、軍が力を行使して辞めさせるべきだと主張しており、論議が巻き起こっている。アメリカ陸軍で大佐と中佐を務めた2人の退役軍人は、軍事問題を扱うメディア「ディフェンス・ワン」に、米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長あての公開書簡を掲載。「もし大統領が憲法で定められた任期までに退任しなければ米軍は力を行使して大統領を辞めさせなければならない」として、軍の介入を主張した(8月13日 NHK)。

 悲しいことにこれは、ベラルーシや中国などではなく、民主主義大国であり模範を示すはずの、米国での話である。

大統領選で分断がますます深まる可能性

 米大統領選を特集したNEWSWEEK日本版(9月15日号)に掲載された記事「『運命の選挙』投票後に待つカオス」は、今回の大統領選では「大多数の有権者が正当と認める勝者が生まれない確率が極めて高い」という、非常に厳しい予測をした。

 「2000年の大統領選でジョージ・W・ブッシュの勝利が確定したのは、フロリダ州の票の再集計をめぐる訴訟で連邦最高裁判所が事実上ブッシュの勝訴となる判決を下したからではない。民主党候補のアル・ゴアがアメリカの民主主義制度を尊重して潔く敗北を認めたからだ」。だが、トランプ氏にそうした態度を期待するのは難しそうである。

 また、選挙後36時間以内にバイデンとトランプの双方が勝利宣言をした場合について、「私が最も懸念するのは、自動小銃を持った連中が(通りに)現れる事態だ。本格的な暴動とまではいかなくとも、あっという間に大混乱になる」と、元米連邦捜査局(FBI)特別捜査官がコメントしている。この記事の筆者は「そうなればトランプには、連邦軍を出動させる口実ができる」と、鋭く指摘した。

 現在のアメリカ社会は、20年前とは比べものにならないほど「分断」が深刻化している。そして、今回の大統領選挙というイベントは、そうした「分断」の解消につながるものではなく、「分断」をより深める結果になる可能性が高い。

 何が起こるか分からない怖さもあるため、金融市場では大統領選直後の時期の予想株価変動率が高くなるという現象が起こっている。米国の大統領選挙の行方は、予測不能の部分がある、かなり大きなマーケットイベントになりそうである。