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 むろん、公開討論会でトランプ大統領にダメージが及ぶ可能性もある。バイデン陣営はこの場を使って、大統領がいかにうそを並べてきたか、その発言内容のファクトチェックで攻勢をかけたい考えのようである。

 次に、これは内外のマスコミが必ず指摘する点だが、バイデン候補の支持者にはあまり「熱気」が感じられない。かなりの部分が、選挙公約実現を強く望んでいるがゆえに積極的にバイデン支持に回っているのではなく、「反トランプ」という一点で対抗馬の下に結集しているにすぎないというのが実態だろう。

 加えて、民主党はもともと一枚岩ではない。バイデン氏は中道派で、民主党の大統領候補指名争いを展開したサンダース上院議員やウォーレン上院議員は左派。バイデン氏の選挙公約は左派の主張を一部取り入れたものの、多くを取り入れたわけではない。民主党左派の支持者や、民主党支持の比率が高いアフリカ系(黒人)が、どこまで積極的に選挙登録をした上で投票するかは未知数である。

 バイデン陣営の実情を考えていて、筆者がどうしてもイメージしてしまうのは、1600年の関ケ原の戦いにおける西軍だ。兵の数は集まったものの、石田三成の人望のなさもあってかまとまりがなく、結局は東軍を率いる徳川家康の軍門に下ることになった。

 さらに、白人警官がほぼ無抵抗の黒人を射殺するといった事件が相次いで起こっており、黒人の命も等しく大切だと訴える抗議運動が活発になっている。穏当なデモにとどまらず、一部が暴徒化して建物を破壊するなどの事件もあり、トランプ陣営に格好の宣伝材料を提供している。大統領やペンス副大統領が最近口にすることの多い「法と秩序(law and order)」である。

米国の暗部が露呈、白人は「法と秩序」に傾く?

 1960年代から何も変わっていないのかとさえ思わせる人種差別は、米国の暗部である。それを変える必要性を、白人の多くが頭では分かっていても、社会秩序が不安定化して日々の暮らしが危うくなると、そこまでの抗議活動はさすがにやめてくれと内心では考え、「法と秩序」維持の主張に傾きやすくなるのではないか。

 この件で筆者が思い出すのは、香港の民主化要求デモに対する、ビジネスパーソンや商店主の反応である。「一国二制度」で担保されているはずの民主的な香港は維持したい。だが、交通網がマヒしたり、オフィスや店舗が閉鎖を余儀なくされたりするような抗議活動が続くと、自分の仕事や商売、さらには経済全体が回らなくなるのでやめてほしいと、顔をしかめる人々も出てくる。

 「オクトーバー・サプライズ」という言葉がある。大統領選挙の直前の10月には、現職大統領の側が支持率をアップさせる狙いで何らかのサプライズを演出するのではないかと、市場の一部が考えている。

 新型コロナウイルス対応ワクチンの認可・接種開始が想定されるわけだが、そのほかに、仮に10月に大規模な人種差別抗議デモが発生・激化して社会騒乱の様相を呈するとすれば、どちらの陣営に追い風になるだろうか。

 話を一歩進めよう。11月3日の大統領選・一般投票の結果が僅差の場合には、郵便投票の開票作業の結果待ちとなり、勝者の確定まで時間を要することも考えられる。そして、結果が「トランプ再選」と出た場合には、大きな混乱が起こる可能性はあまりない。

 もっとも、同時にある上下両院議員選挙で民主党が、すでに過半数となっている下院に加えて、上院でも勝利して支配権を奪還するようだと、「ねじれ議会」になる。民主党は大統領の言うなりにはまずならないので、2期目のトランプ政権はその選挙公約の実現が早くも危ぶまれることになる。