WSJは上記に関連したQ&A方式の記事の中で、興味深い指摘をしていた。子どものいる親にとって29.99ドルは「バーゲン(ものすごくお得)」だという。家族で映画館に行く場合、1人平均9ドルのチケット代×人数分、ポップコーンやドリンクの代金、そして駐車場代もかかってくる。

 こうした総コストを考えると、30ドルの追加料金はかなり安く見えるはずだというのである。さらに、この特別料金はいずれ終了し、通常の月額料金支払いだけで「ムーラン」を鑑賞できるようになるはずだという。そうなるとますます「バーゲン」である。

映画の先行配信は一過性で終わらない?

 ウォルト・ディズニーでは、今回の「ムーラン」のような映画館での上映なしに先行独占配信するやり方は、一回だけの特別措置だと説明している。だが、本当にそうなるのだろうか。筆者は2つの点から大いに危惧している。上記の通り、ビジネスとしての収益性が高いことが1つ。そしてもう1つは言うまでもなく、コロナとの闘いには終わりがまだ見えないことである。

 母親の影響などから、筆者は子どもの頃から現在に至るまで、映画館によく行く。大きなスクリーンの映像と素晴らしい音響に浸り、映画の世界に心を委ねる。「生きていて本当によかった」とさえ思える至福の時間である。その映画の先進国である米国で、映画館に行って映画を見るという生活様式が今、大きな危機にひんしている。

 新型コロナウイルスがもたらしている新しいタイプの危機は、この先どのような「新常態」につながっていくのだろうか。米国からのものを含むさまざまな情報に接しながら、筆者も日々、期待と懸念が心で交錯する中で、考え続けている。

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