テレワークが広がっており、おそらくは一段と普及していくので、住宅に「オフィス」としての利用価値が加わるのはその通りだろう。すでに述べた通り、住宅販売統計にはそのあたりを考慮した、郊外・準郊外の広い一戸建て住宅志向の高まりが反映されている。

 だが、「教室」としての価値については、筆者には納得しがたい部分もある。米国の小中学校のインフラは千差万別なのだろうが、やはり学校教育とはリアルな世界で仲間たちと机を並べ、課外活動も含めて連帯感や責任感などいろいろなことを身につけていく場ではなかろうか。郊外の住宅でのオンライン授業だけで完結するものではあるまい。

 自分の家の中ならばマスクをしなくていいという利点についても、このコラムは言及している。マスクなしで庭仕事をしたり、キッチンで料理ができたりする。そして、静かだ。以前は当たり前だったことが、「新常態」では価値を見いだせる点になってくる。

 さらに、心療内科などでセラピーを受けることが一種のステータスシンボルになっている米国らしい意見も、このコラムは最後に取り上げていた。大都市のオフィスはもともとストレス満載である上に、新型コロナウイルスの登場によってさらにストレスが増した。郊外の広い自宅で静かにテレワークをすれば、セラピーにかかる費用の節約にもなるというのである。

日本でも今後、微妙な変化へ

 日本ではどうだろうか。テレワークの日にリビングルームでパソコンを操作している最中に、就学前の子どもがまとわりついてくるので、なかなか仕事がはかどらないという声を社内で聞くことがある。自分専用の仕事部屋を確保するニーズが生じたため、マンション購入を検討している人もいる。

 米国のように大きなムーブメントになっているわけではないものの、このままテレワーク比率の上昇が続いていくとすれば、日本の住宅市場にも微妙な変化が徐々に生じてくるだろう。まだそうした動きは表立っていないようだが、売り手の側にも状況の変化に応じた工夫が、当然要求されてくる。

 もう1つ、ウイルスと共存する中での米国の「新常態」を浮き彫りにする記事が、同じ日のWSJに載っていた。ウォルト・ディズニーが8月4日に発表した映画「ムーラン」の先行独占配信計画である。

 映画ファンあるいはディズニーファンは十分ご存じだと思うが、昔の中国を舞台にした実写版映画「ムーラン」の公開予定日は、コロナ禍で先送りが続き、ついに無期限延期になってしまった。楽しみにしていた一人である筆者もがっかりである。

 ウォルト・ディズニーは自社の有料配信サービスである「ディズニー+(プラス)」で、この「ムーラン」を9月4日から配信する。「ディズニー+」の月額基本料金は6.99ドル。これに追加で29.99ドルを支払うと「ムーラン」を観ることができる。そうした価格設定について日本経済新聞は、映画館でのチケット代(通常20ドル以下)より高い上に、売り上げを映画館と折半する必要もないことなどを指摘した(8月7日付「ディズニー株高の陰で深まる映画館の苦悩」)。

 米通信社ブルームバーグによると、最低1000万人が視聴すれば3億ドルの売上高は確保することができ、製作費2億ドルは問題なく回収できるのだという。4~6月期の赤字決算にもかかわらず、株式市場ではウォルト・ディズニーの株が値上がりした。

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