
筆者が毎月チェックしている地味な統計の1つが、日銀が作成・公表している決済動向である。その5月分が6月30日に公表された。もっぱらウォッチしているのは、手形交換高と電子マネーである。
それらのうち電子マネーの計数は、個人消費の良しあしを決済手段の面から探る指標になり得る。ただし、この統計がカバーしているのは「プリペイド方式のうちIC型の電子マネー」のみであり(専業系1社、交通系5社、流通系2社、合計8社のデータ)、最近普及が著しいQRコードを用いたキャッシュレス決済の件数・金額は含まれていない。なお、交通系については「乗車や乗車券購入に利用されたものは含めていない」と、日銀は注記している。
最新データである4月分は、緊急事態宣言が出されて個人消費全体が急激に減少した月ということから、非常に弱い。決済件数は4億100万件(前年同月比マイナス19.9%)。決済金額は4490億円(同マイナス1.8%)。いずれも昨年7月に記録して以来のマイナスである(図1)。
決済件数のマイナス幅よりも決済金額のそれがかなり小さいということは、1件当たり決済金額が急増したということである。日銀の公表データでは1120円になっており、その前年同月比は+22.7%という高い伸びである(図2)。
なぜ1件当たりの決済金額が増えたのか?
このように1件当たりの決済金額が大きく増えた原因を、筆者なりにいろいろ考えてみた。
まず、キャッシュレス決済に対して還元されるポイント狙いの消費支出が4月に急に増加したと考えることには、明らかに無理がある。6月末の制度終了前の駆け込み購入が出るにはタイミングが早すぎるし、まとまった金額の買い物が可能な家電量販店など多くの店舗は、緊急事態宣言が出される中で営業を休止していた。
また、すでに述べたように、鉄道やバスの運賃支払いに使われた分はこの統計には含まれていないので、公共交通機関を使っての通勤・通学や短中距離の移動が顕著に減少したことは、直接は影響していないとみられる。ただし、駅の売店や自販機での新聞や飲み物といった電子マネーによる少額の買い物が減少し、このことが1件当たりの決済金額を押し上げる方向に寄与した可能性はある。
お札などの現金に新型コロナウイルスが付着していることを警戒して、キャッシュレス決済をあえて選択して買い物をしたことが、1件当たりの決済額に影響した可能性はどうだろうか。筆者の周りでそうした行動をとった人がいるという話はほとんど聞かないのだが、調べてみると、フィンテック企業が実施したアンケート調査への回答からは、そうした現金を敬遠したい意識を持っている人が実は結構いたことがうかがえる。
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