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世間は恐る恐る社会的距離を縮めている(写真:西村尚己/アフロ)

 新型コロナウイルス感染拡大阻止のために順守すべきコンセプトとして、「社会的距離」がすっかり定着した。英語では“social distancing”と言うのが普通である。日本でカタカナ表記でよく用いられる“social distance”は、もともとは異なる階級や民族の間の距離感を示す社会科学の用語だから、感染症対策の文脈で用いるのは不適切だという声もあった。

 だが、コロナとの闘いが長期化する中、この表現も徐々に浸透してきている。厚生労働省のホームページには、新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」の実践例として、「人との間隔は、できるだけ2メートル(最低1メートル)空ける」と書かれている。

 なお、WHO(世界保健機関)は「物理的距離(physical distancing)」という言い方に変えて、人と人のつながりは保ってほしいとしており、英語圏では広がりつつあるという。

経営を圧迫する「社会的距離」

 緊急事態宣言が解除されて東京都の休業要請も緩和されたので、子どもの頃から映画が大好きな筆者は、休日に、都内の繁華街にある映画館をはしごした。

 1つめの映画館は、各列で座れる座席が5つおきになっており、間にある座れない座席4つには白いテープが貼られていた。

 もう1つの映画館は、前後左右にある座席4つのチケットを販売しないことによって観客どうしの間隔を空けるやり方だった。前者の方が「社会的距離」として2メートルを取ろうとすることに忠実だが、収容できる観客数が本来の定員よりかなり少なくなってしまうので、経営的には苦しいはずである。

世界で「距離」を縮める動き

 「社会的距離」として推奨されている2メートルをできるだけ守ろうとすれば、1メートルでOKとする場合よりも、経済的な悪影響は明らかに大きくなる。

 とはいえ、英医学誌ランセットでは6月1日、2メートルではなく1メートルの距離しか保たないようだと新型コロナウイルス感染リスクが倍増する恐れがあるとの研究報告が掲載された。そこで、いくつかの国で出てきているのが、間をとった「1.5メートル」案である。

 英経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は6月13・14日付に、「経済が2メートルの距離に圧力をかけている(Economics puts two-metre distancing under pressure)」と題した記事を掲載した。そこには、スペインが6月21日からコロナ対策で必要な距離を1.5メートルに縮めること、英国も経済への配慮から同様の措置を検討していることが書かれていた。

 ロイター通信によると、14日にはジョンソン英首相が、ロックダウンの一段の緩和を控える中で、2メートルの社会的距離を確保する規則について見直しを進めていることを明らかにした。これより前にはスナク英財務相がスカイニュースに対し、2メートルの社会的距離を確保する場合にはパブは全体の3分の1しか業務を再開できないが、規制を緩和すれば全体の4分の3が業務を再開できる可能性があると述べていた。