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少子化対策に、時間的猶予はない(写真=PIXTA)

 国の少子化対策の2025年までの指針となる「少子化社会対策大綱」が5月29日、ひっそりと閣議決定された。だが、新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした危機への政策対応に人々の関心が集中しているさなかということで、この動きは筆者の周囲ではほとんど話題にならず、マスコミ各社の扱いも総じて小さかった。

 人口動態を重視しているエコノミストである筆者は、この大綱がどうなるかに注目していた。以前にご紹介した通り、「第1子に月1万円、第2子に月3万円、第3子に月6万円」といった児童手当拡充案に、安倍首相の側近としても知られる衛藤晟一・少子化対策担当相が関心を示していると、毎日新聞が報じていたからである(当コラム2月26日配信「『第3子に月6万円』の児童手当拡充案が浮上?」参照)。

 もっとも、衛藤大臣がこの構想を安倍首相に打診したところ、3~5兆円が必要という財源面から首相は「うーん」とうなったまま沈黙したという。

 結局、今回の大綱が盛り込んだのは児童手当拡充の「検討」までだった。施策の具体的内容を記した「別添1」に、「児童手当について、多子世帯や子供の年齢に応じた給付の拡充・重点化が必要との指摘も含め、財源確保の具体的な方策と併せて、子供の数や所得水準に応じた効果的な給付の在り方を検討する」という文章が入っていた。

時間的な猶予は全くないのに……

 19年の出生数が過去最少になったことを、大綱は「86万ショック」と呼んで危機感を示した。安倍晋三首相が打ち出したコンセプトである「希望出生率1.8」という数値目標を大綱に初めて明記したことには、それなりに意義があるのかもしれない。だが、その目標を実現するための施策においては、コンセプトの羅列にとどまってしまった感が強い。今回の大綱には、以下の記述がある。

 「少子化の進行は、人口(特に生産年齢人口)の減少と高齢化を通じて、労働供給の減少、将来の経済や市場規模の縮小、経済成長率の低下、地域・社会の担い手の減少、現役世代の負担の増加、行政サービスの水準の低下など、結婚しない人や子供を持たない人を含め、社会経済に多大な影響を及ぼす。時間的な猶予はない。今こそ結婚、妊娠・出産、子育ての問題の重要性を社会全体として認識し、少子化という国民共通の困難に真正面から立ち向かう時期に来ている」

 「少子化は今この瞬間も進行し続けており、少子化への対応は遅くなればなるほど、将来への影響が大きくなる。したがって、早急に取り組みを進めることが必要である。一方で、少子化対策は、その効果が表れるまでに一定の時間を要する。少子化の進展に歯止めをかけるため、長期的な展望に立って、必要な安定財源を確保しながら、総合的な少子化対策を大胆に進めていくことが必要である」

 筆者が長年にわたって抱き続けている問題意識と危機感を、上記の文章は、実にうまく凝縮してくれている。まさに「時間的な猶予はない」わけだが、次回の大綱の決定は5年先である。