だが、返済額はEUの中期予算の枠内で固定されている負担割合に応じたものになる。要するに、「南」が必要な額を「北」が払ってあげることが十分可能なスキームである。

 そうしたことには否定的だったドイツの姿勢がここにきて変化したことを、市場は驚きをもって受け止め、そして歓迎した。EUの多くの国がこの案に賛成した。

「倹約4カ国」の離反

 しかし、「倹約4カ国(frugal four)」と呼ばれるオランダ、オーストリア、スウェーデン、デンマークは、補助金の供与ではなく融資の形で基金は活用すべきだとして、反対を表明した。その後、フィンランドが6月4日になって欧州委員会の現行案を拒否する方針を打ち出し、これら4カ国に加わった。

 新型コロナウイルスによる危機で経済がひどく疲弊した「南」のイタリアやスペインなどを円滑に支援するためには、妥協点はできるだけ早く見つけるのが望ましい。そうした中で、テレビ会議方式ではなく「対面型」の普通の会議形式で話し合う必要があるのではないかという声がEU内で出てきていると、5月25日(現地時間)にロイター通信が報じた。

「テレビ会議方式で合意が得られると考える人は誰もいない」

 この報道によると、共通予算および復興基金について協議するため、テレビ会議方式ではなく実際に顔を合わせての首脳会議を、EUが向こう数週間のうちに開催する可能性があると、外交筋や当局筋が明らかにした。

 EU内では、激しい論議が予想される予算協議をテレビ会議方式で実施するのは難しいとの見方が出ているほか、通訳などの問題も指摘されており、「予算案と復興基金を巡っては、実際に顔を合わせての会議を開催しないと合意できない。テレビ会議方式で合意が得られると考える人は今のところ誰もいない」とまで、EUの外交官は述べたという。

 5月27日に欧州委員会は、独仏による提案と「倹約4カ国」案の双方を包含する形で、7500億ユーロ(約89兆円)規模の復興基金創設案を提示した。5000億ユーロの補助金供与と2500億ユーロの融資が内訳である。EUが共通の債券を発行して財源を調達する。全会一致の原則があるので、EUの全加盟国の賛成が得られなければ、この案は実行に移されない。

 ミシェルEU大統領は同日、この基金案を6月19日に開催される定例のEU首脳会議で検討する方針を表明した。この首脳会議が対面方式になるというアナウンスは本稿執筆時点ではまだないのだが、果たしてどのような結果になるだろうか。

 日本が絡んだ事例も、最後に1つだけ紹介しておきたい。3月16日に初めてテレビ会議方式で行われたG7サミット(主要7カ国首脳会議)である。

 このサミットについて日本政府関係者は、2国間の首脳会談や夕食会などが開催されないため「首脳どうしが趣味などで意気投合し、個人的な信頼関係を深める良い機会が失われた」と残念がったという。

 また、テレビ会議が約50分間と短かったため、「直接会って、時間をかけて話すのとは内容が全然違う」と外務省幹部は振り返っていたという(3月19日付時事通信)。踏み込んだ議論がさっぱりできなかったというわけである。

 コロナ後の「新常態」ではオンラインでの会議が徐々に主流になるだろうという見方が一般的であり、筆者もそのように見ている。だが、微妙な問題で国どうしが妥協点を模索する際などの、相手の表情などもうかがいながらのバックルームでの探り合いや駆け引きといった交渉上のテクニックは、対面方式でなければ用いるのはなかなか難しいだろう。

 会議の性質や難易度に応じて会議を開く方式を使い分け、必要に応じて対面での会議も設定するというのが、結局は落としどころになるように思われる。

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