全4781文字

 一方、飛翔体発射の政治的意味合いについて韓国の国防当局は、金委員長が指導力を内部に向けて誇示するためだと分析している。「軍部を引き締めるとともに、指導部の統率力を外部に誇示する意図もうかがえる」「経済への打撃を最小化するためには、貿易や建設などの活動にかかわる軍の士気を保つ必要がある。軍内部には、金正恩氏が18年以降に対米交渉で示した非核化の方針に反発する声が根強かった」とする報道が出ている(3月10日付日本経済新聞)。

 さらに、飛翔体の発射は、平壌から金委員長が離れたままでいる口実作りになっている面があるかもしれない。元山と宣徳は北朝鮮東部に位置しており、関係者の1人は「正恩氏はこの間、平壌に戻っていない。平壌を避けているようだ」と話したという(3月10日付朝日新聞)。新型コロナウイルスの感染者は北朝鮮の首都で人口が最も多い平壌で多く出ていると推測される。そこで、金委員長は平壌からなるべく離れていたいのだろう。とすれば近々、恐らく3月中旬に何らかの動きがあるはずだと筆者が考えていたところ、実際に下記の動きがあった。

 労働新聞は13日、金正恩委員長の立ち会いの下で12日に軍の射撃訓練があったと伝えた。「さまざまな大きさの大砲などが目標に向かって発射され、射撃の成績と任務の遂行にかかった時間を総合して勝敗が競われた」という。そして金委員長は「砲兵の威力は、すなわち朝鮮人民軍の威力だという考え方を胸に刻むべきだ」と述べて、砲兵の強化を指示したという。

 NHKはこの件についてのニュースに、「12日の訓練では、弾道ミサイルは発射されなかったとみられます」「金委員長は今月に入って2度、弾道ミサイルとみられる飛翔体の発射訓練に立ち会うなど、このところ、頻繁に軍を視察しています」「北朝鮮としては、新型コロナウイルスへの対応の一方で、軍の態勢に変わりはないことをアピールする狙いがありそうです」と、説明を加えた。

 なお、こうした報道を額面通りに受け取ると、北朝鮮の軍は新型コロナウイルスの脅威にもかかわらず通常通りだと思ってしまいがちだが、そうではないと米国は見ているようである。在韓米軍のエイブラムス司令官は翌13日にビデオ回線を通じて記者会見し、北朝鮮軍が約30日間にわたって軍事活動を停止していたことを明らかにした。新型コロナウイルスの感染拡大が背景にある可能性が高いという。

 「例えば、北朝鮮軍は24日間一度も飛行機を飛ばさなかった。最近になってようやく通常の訓練を開始したもようだ」「感染者が出ていることはほとんど間違いないとみている」との発言があった(時事通信)。

市場はパラダイムシフト

 北朝鮮はさらに3月21日にも、短距離弾道ミサイルと推定される飛翔体2発を日本海に向けて発射した。金正恩委員長が20日に朝鮮人民軍西部前線大連合部隊の砲撃対抗競技を視察したと報じられており、それとおそらく関連がある。

 さて、金委員長を強く警戒させているとみられる新型コロナウイルス。新たなタイプの危機に対する即効薬や決定的な対処法が見当たらない中で、米国株は暴落。金利は大幅に低下しており、市場は「パラダイムシフト」の様相を呈している(当コラム3月17日配信「『パンドラの箱』を開けてしまったパウエル議長」ご参照)。

 世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は11日、新型コロナウイルスの感染拡大は「パンデミック(世界的な大流行)」だと、ようやく表明した。ニューヨーク市のデブラシオ市長は12日、新型コロナウイルス感染者が市内で急増していることを理由に非常事態宣言を出した。感染者の集団発生を巡る混乱はすぐには終わらず、少なくとも6カ月程度は続く可能性があると指摘した。6カ月後は9月、北半球では季節は秋である。

 このような状況下、国際的なイベントの延期や中止のニュースが相次いでいる。