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米連邦準備理事会(FRB)が緊急利下げ。事実上のゼロ金利導入を発表したジェローム・パウエル議長(写真:ロイター/アフロ)

 3月3日に開催された主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁による緊急電話会議では、新型コロナウイルスの感染拡大が市場や経済状況に与える影響を緊密に監視しているとしていた。その上で、「全ての適切な政策手段を用いるとのわれわれのコミットメントを再確認する」「適時かつ効果的な施策について、さらなる協力を行う用意ができている」と表明していた。

 だが、中央銀行の政策運営についてこの共同声明では「引き続き自らのマンデートを履行し、もって金融システムの強靱(きょうじん)性を維持しつつ、物価の安定と経済成長を支える」と書かれたのみだった(引用は日本の財務省による仮訳から)。事前に一部で報道されていたような、協調利下げなどの具体的な政策行動が声明に盛り込まれることはなかったため、市場では失望感が広がった。

 その直後に突然公表されたのが、0.5ポイント幅の緊急利下げを全員一致で決定したとする、米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明文である。G7の議長国である米国が何もアクションをとらないのは許されないという政治的な雰囲気があったのだろうか。ちなみに、これより前、トランプ大統領は米連邦準備理事会(FRB)に対し、迅速な利下げを要求していた。3月17~18日開催予定の定例のFOMCを待たずに、緊急で大幅な利下げに踏み切ったわけである。

緊急利下げは「アナウンス効果」

 市場はすでにFRBによる連続的な利下げを織り込んでおり、長期金利は過去最低の水準に下がっていたので、上記の緊急利下げの意味合いはもっぱらアナウンスメント効果にあったということになる。

 声明文は、2月28日に利下げの予告のように出されたパウエル議長の緊急声明にもあった、「米国経済のファンダメンタルズは引き続き強い」という文章を改めて冒頭で掲げつつも、経済活動に対するコロナウイルスのリスクが大きくなりつつあるとして、これを緊急利下げの理由とした。

 この利下げによって、フェデラルファンド(FF)レートの誘導水準は1.0~1.25%になった。パウエルFRB議長は記者会見で、米国でも新型コロナウイルス感染者が出始めたことを理由に、米国の景気見通しが「大幅に変わった」と述べた。FOMC声明文は「今後も適切に行動する」と明記していたため、市場はさらなる利下げを予期していた。

 米国の場合、短期金融市場に厚みがあり、その機能を維持する必要があることから、日欧のようなマイナス金利導入はハードルが非常に高い。したがって、FFレート誘導水準の事実上の下限は0~0.25%である。

 この水準までは、1回の利下げを0.25ポイント幅で考えた場合でも、残り4回分という計算であり、日銀や欧州中央銀行(ECB)に続いてFRBについても、「弾切れ」状態がはっきり視野に入った。追加緩和手段の面での金融政策の手詰まりが露呈し、FRBも日銀流の「持久戦」、すなわち低金利を粘り強く続けて物価が目標に向かって上がるのをじっと待つ作戦へとやむなく移行する流れが、従来の想定よりも数年早く、見えるようになったわけである。

 緊急利下げ当日の米国株はいったん上昇したものの、結局は大幅に反落して取引を終えた。その後も過去最大の下落幅を3月9日さらには12日に記録するなど、不安定な展開が続いている。