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 その後、1月30日に金融政策委員会を開催したイングランド銀行(BOE)、2月4日に理事会を開催したオーストラリア準備銀行(RBA)も、新型肺炎のリスクに言及しつつ、様子見の据え置きを選択した。RBAは声明文に、「もう1つの不確実性の源は新型コロナウイルスであり、中国経済に現在、著しい影響を及ぼしている。そのインパクトがどの程度長期化するのかを判断するのは時期尚早である」と記述した。

 一方2月5日には、新型肺炎による観光業への打撃や干ばつなどにより経済成長見通しが悪化したことを踏まえ、タイ中央銀行(BOT)が市場の大方の予想に反してサプライズ的に追加利下げに踏み切った。

 政策金利である翌日物レポ金利は0.25%ポイント引き下げられて1.0%になり、日本を除くアジア諸国で最も低い水準になった。また、シンガポールの中央銀行であるシンガポール通貨庁(MAS)は同日、為替相場の調整によって金融緩和を実施する余地が十分あると表明した。東南アジアのこれら2カ国は、国内における新型肺炎の感染者数が比較的多めの国々である。中国経済悪化の影響が波及しやすい東南アジアでは、翌6日にフィリピン中央銀行も動き、新型肺炎による悪影響を引き合いに出しながら、追加利下げを決定した。

 2月初旬の土日、筆者は私用で韓国に出向いた。羽田空港の国際線ターミナルは、人々のマスク装着率が95%くらい(空港勤務者はむろん100%)で、マスク慣れしていない欧米人には戸惑いの表情が見られた。

ソウルも「マスク人」でごった返す

 そして、ソウル市内では空港や地下鉄など人がたくさん集まる場所におけるマスク装着率はほぼ100%。羽田空港以上に「マスク人の国」とでも呼べそうな様相を呈していた。中国とは北朝鮮を挟んで陸続きの韓国の方が、不安の度合いは日本よりも大きそうである。

 「SARSと違い、軽症者やウイルスに感染しても症状が出ない人がかなりの割合でいる」「人から人に感染が広がっていく感染連鎖が見えない」。2月3日の日本経済新聞朝刊に掲載されて市場でも注目された、押谷教授のコメントである。

 歩いていく道の先が視界不良だという不安⼼理は、実に厄介である。「マスク⼈の国」のような街の様⼦が解消されて正常化する時期は、まだ⾒えてきていない。日本では、空港や港湾以外の場所、たとえば東京・渋谷といった繁華街でのマスク装着率が5割を大きく下回っており、新型肺炎の感染者が一気に増加する素地があるのではと危惧する声も聞かれる(一方で、マスクが感染予防に与える効果を疑問視する専門家の声もあるが…)。いずれにせよ、需要および供給の両⾯から、中国を中⼼に世界の経済は、しばらく下押しされざるを得ないだろう。