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 この間、南半球のオーストラリアでは、2019年9⽉頃から続く⼤規模な森林火災がいっこうに鎮火する気配を見せず、国の経済全体への悪影響が危惧されるようになっている。連邦政府の対応が後手に回る中で、中央銀行が追加利下げに踏み切る必要性ありと市場が見なすようになっている。

 家屋の焼失、コアラをはじめとする野生動物の被害などが話題になったが、1月に入るとメルボルンで大気汚染が深刻化し、テニス全豪オープンで棄権する選手が出るなど、影響はさらに拡大。農業や観光業へのダメージ、消費マインドへの下押し圧力を含めて、オーストラリア経済全体への悪影響を真剣に考える必要が増大している。

 そこで森林火災がオーストラリア経済にもたらしている深刻な影響が、中央銀行の背中を押すのではないかと考える向きが多くなっている。具体的には、経済⾒通しが再評価される2⽉4⽇の次回理事会、あるいは3月以降のいずれかの理事会で、今回の山火事が直接のきっかけになり、オーストラリア準備銀行(RBA)が追加利下げに動くのではないかという見方である。

 19年6・7・10月に計3回利下げしつつ、将来の量的緩和にも含みを持たせることで、RBAは、同年5月にニュージーランドから始まった先進国中央銀行による「緩和競争」の中で、かなりの存在感を発揮してきた。政策金利であるキャッシュレートは過去最低の0.75%になっている<図1>。

■図1:オーストラリアとニュージーランドの政策金利
(出所)RBA、RBNZ

 ロイターが集計して1月14日に報じたエコノミスト調査では、20年の同国の成長率予想は前年比+2.3%、21年は同+2.5%にとどまった。長期平均が+2.75%とされるこの国では、弱めの数字の並びである。しかも、19年7~9月期までの物価指標はインフレ目標対比で弱い。

今後も続く異常気象

 オーストラリアの気象局によると、19年は観測史上で最も気温が高く、最も湿度が低い年になり、これが山火事の拡大につながった。

 世界気象機関(WMO)は1月15日、19年は世界の平均気温が観測史上2番目に高かったと発表した。15~19年の5年間、10~19年の10年間の平均気温はいずれも過去最高。10年間の平均気温は80年代以降、過去最高を更新し続けており、地球温暖化の進展を裏付けている。WMOのターラス事務局長はオーストラリアの大規模な山火事に言及し、「残念ながら今年も今後数十年間も異常気象に直面することになるとみられる」と述べて危機感を表明した。

 1月23日に発表された昨年12月のオーストラリアの雇用統計が市場予想よりも強い内容になったため、2月にすぐ追加利下げがあるという読み筋はいったん後退を余儀なくされた。だがその一方で、この国の経済と密接なつながりがある中国で新型肺炎が流行し始めたという、新たな景気の悪材料も出てきている。

 いずれにせよRBAの追加利下げは時間の問題だろう。それが現実になれば、気候変動(地球温暖化)がもたらす経済的悪影響が先進国の政策金利引き下げにつながった、恐らく初の事例として、歴史に残るものになるかもしれない。