
内閣府から2019年12月9日に発表された同年7~9月期の四半期別GDP(国内総生産)2次速報で、実質GDPは季節調整済前期比+0.4%・同年率+1.8%に上方修正された。前年同期比では+1.7%。潜在成長率が0%台後半とみられている日本の成長率としては、この四半期だけを取り出せば、実に良好な成績だと言える。
もっとも、この四半期の経済成長には10月からの消費税率引き上げを前にした家電などの駆け込み的な購入も寄与していた。その反動や、台風19号などがもたらした店舗営業休止・工場操業停止といった経済活動への下押し圧力が反映される10~12月期の実質GDPは、前期比マイナスに転じる可能性が高い。言うまでもないことだが、日本経済の状況は、たまたま好材料があった単一の四半期の数字だけでなく、その前後も含めて、大きな流れを見る必要がある。
そこで、14年4月の消費税率引き上げによる経済への影響が一巡した後、16年以降について、実質GDPの季節調整済前期比およびそれに対する内需・外需別寄与度の推移を見ておきたい<図1>。
16年については、外需(輸出-輸入=純輸出)のプラス寄与が日本経済をけん引していたことがうかがえる。しかし18年からは、米中貿易戦争の激化などを背景とするグローバルな景気減速(スローダウン)を主因に、外需がプラスに寄与する四半期がめっきり減った。
テクニカルにはすでに景気後退局面入り?
そうした場面で、仮に内需(個人消費と設備投資が2本柱である)も減少してしまうようだと、事態は悪化せざるを得ない。国内景気はベクトルが下向きであり、テクニカルにはすでに景気後退局面入りしているのではと筆者はみているのだが、内需の方も弱いようだと、落ち込みの度合いが深くなってしまう。
実際にはこれまでのところ、筆者を含むエコノミストが想定していたよりも内需は底堅く推移しており、底割れ的な景気の悪化は回避されている。17年1~3月期から19年7~9月期までの11四半期のうち9四半期で、実質GDP前期比に対する内需の寄与度はプラス。19年7~9月期まで実質GDPは4四半期連続のプラス成長である。すでに述べた通り、次の10~12月期は前期比マイナスに転じる可能性が高いものの、そのままマイナス成長が続くと予想しているエコノミストは極めて少ない。
では、内需の2本柱のうち個人消費は、なぜ大崩れしないのだろうか。その最大の理由は、雇用・賃金環境が「悪くはない」ため、消費者の支出意欲がそこそこ保たれていることだろう。
街の風景を眺めていても、世界経済が「リーマン・ショック」に代表される金融危機に⾒舞われた頃のような、重い空気は感じられない。1人当たり賃金が相変わらず伸び悩むなど、賃金指標が目立って良いわけではないものの、大きく悪化しているわけでもない。ラグビーW杯における日本チームの活躍で世の中のムードが高揚した余韻が残っているせいなのかもしれないが、少なからぬ消費者の心理には一定の余裕があるのだろうと推測される。
雇用情勢は着実に改善
完全失業率は、直近データである19年10月分で、9月から横ばいの2.4%になった。発表元である総務省は「18年1月以降は2.5%以下と、約26年ぶりの低い水準で推移している」として、雇用情勢について「着実に改善している」との見方を示している。
有効求人倍率は、1.63倍まで上昇して頭打ち高原状態になった後、輸出が減少するなどして雇用人員のひっ迫感が薄れた製造業関連を中心に求人が減少し、低下に転じた。だが、製造業から非製造業への業況悪化波及がさほど進んでいないため、大きく低下することは避けられており、直近データである19年10月分は、9月から横ばいの1.57倍。内需の底堅さで持ちこたえていると言える。
そうした足元の日本経済の「二面性」が改めて示されたのが、日銀短観(全国企業短期経済観測調査)の19年12月調査である。
景況感悪化を先導してきた製造業ではそろそろ景況感に下げ止まり感が出始める一方で、非製造業は、製造業からの悪化波及に加えて、消費税率引き上げや大型台風襲来といった悪材料もある。結果が発表される前の時点で筆者は、関連統計の数字を踏まえつつ、景況感はかなり悪化するのではないかと予想していた。製造業の下げ止まり接近を予想する1つの根拠は、OECD景気先行指数(CLI )が示唆している、世界経済の20年前半から半ばあたりでの下げ止まり見通しである。
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