ところが、ボルトン氏との確執が取り沙汰されたポンペオ米国務長官もまた、対北朝鮮では強硬派である。このため、「ボルトン外し」をきっかけにして米朝協議が前進することはなかった。
そうこうするうちに、20年の米大統領選が視野に入り、再選を目指すトランプ氏は「選挙モード」へとシフトして、北朝鮮の問題に時間を割く余裕はなくなっていく。米国をせっつく必要ありと、金委員長は考えたのではないか。
北朝鮮のリ・テソン外務次官(米国担当)は12月3日、米国に対して談話を発表。非核化などを巡る交渉期限が年末に迫っていると強調した上で、大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射実験中止などを見直すことも示唆しつつ、米国に譲歩を迫った。
「非核化は交渉のテーブルから外れた」
北朝鮮の金星国連大使は12月7日、米国の交渉姿勢に関し、国内の政治的な思惑から時間稼ぎをしていると批判。「米国と長々とした対話をする必要はない。非核化はすでに交渉のテーブルから外れた」と述べた。
朝鮮中央通信によると、北朝鮮の国防科学院報道官は12月8日、同国北西部・東倉里にある西海衛星発射場で前日午後に「非常に重大な実験が実施された」と述べた。ICBMに使われるエンジンの燃焼実験ではないかとみられている。14日にもそうしたアナウンスがあった。
金英哲・朝鮮労働党副委員長は12月9日、トランプ大統領が「不適切で危険な」発言を続ければ、金委員長は同大統領に対する評価を変える可能性があると警告した。
ロイター通信によると、こうした北朝鮮による一連の動きに対し、ポンペオ国務長官は12月10日、トランプ政権は北朝鮮が非核化に向けたコミットメントを堅持し、長距離ミサイル発射実験をこれ以上実施しないと楽観していると発言。米国は北朝鮮との対話に向けた道を引き続き探っているとした。だが、米朝双方に交渉再開の用意が整っているとは言わなかった。北朝鮮にせっつかれたから何かをするというのではなく、事態を静観する構えである。
そして、トランプ大統領は12月7日時点で、「北朝鮮が敵意のある行動に出れば意外だ」「金委員長は私が大統領選を控えていることを知っている。彼がその妨げになるようなことをしたがるとは思わないが、様子を見よう」と述べた。
対北朝鮮強硬派のポンペオ国務長官が出馬か
北朝鮮としては、大統領選挙でトランプ氏が敗北してしまうと米国の次の政権によって米朝交渉が打ち切られて制裁が強化される恐れがあるので、選挙よりも前に一定の成果を得ておきたいだろう。けれども、トランプ大統領自らが上記の発言で示唆している通り、米国による北朝鮮への譲歩があるとすれば、そのタイミングは2020年11月3日の米大統領選・上下両院議員選よりも後になる可能性が高い。
そして、対北朝鮮強硬派のポンペオ国務長官(元下院議員)が、その上院議員選にカンザス州から出馬するという観測が強まっている。トランプ大統領は11月22日、FOXニュースの電話インタビューで、地元カンザス州からポンペオ国務長官が上院選に出馬すれば「圧勝するだろう」と述べた。これを受けて米メディアは「トランプ氏が出馬を容認した」と報じている。
金正恩委員長からすれば、核兵器・弾道ミサイルはまさに「命綱」である。北朝鮮の現体制の存続に関するよほどしっかりした国際的な保障措置でもない限り、完全な非核化に動くつもりはないと、筆者はみている。
そうした中で、2期目のトランプ大統領が北朝鮮に譲歩して長期にわたる緩慢な非核化プロセスを容認し、経済制裁の解除、朝鮮半島の平和協定への署名、在韓米軍の撤退などをすれば、ノーベル平和賞はとれるかもしれない。
だが、そのことによって日本の安全保障は悪夢のような事態に直面しかねない。北朝鮮が核兵器・弾道ミサイルを実戦配備しており、非核化はいっこうに進まない。日本全土が完全に射程圏内に入っている状況下で、米軍の極東地域におけるプレゼンスが低下していくことになるからである。日本国内の世論が、自主防衛力の一層の強化、「非核三原則」の見直しへと傾斜していく可能性が潜んでいる。
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