つくば市立竹園小学校の授業風景。教育現場ではタブレットの導入も進んでいるが……(写真:つのだよしお/アフロ)
2019年度の補正予算案を「10兆円規模」とするよう、自民党の二階幹事長と世耕参院幹事長が強く主張している。11月19日の党役員連絡会で二階氏が「補正予算は10兆円であるべきだ」と述べると、地元が同じ和歌山県の世耕氏が「参院としても幹事長の方針に沿って議論を加速させる」と同調した。
連絡会の終了後に二階氏は、財務省主計局幹部に電話で「補正は10兆円だ。分かったな」と指示したという(24日付、時事通信)。ある自民党議員は「幹事長2人が同時に同じことを言うというのは、間違いなく政府側が(発言を)振り付けている」と話したという(23日付、朝日新聞)。
国の一般会計の補正予算が10兆円を超えた例としては、直近では12年度がある(うち公共事業費等は4兆7516億円)<図1>。
■図1:一般会計補正予算(2000年度以降) 公共事業費等とそれ以外
注:補正予算が複数回編成された年度は合算している。
(出所)参議院予算委員会調査室「財政関係資料集」
世耕氏は11月22日、アベノミクスの3本の矢のうち、第2次安倍内閣発足直後の経済対策を除いて「第2の矢(機動的な財政政策)は放たれてこなかった」と主張。19年度補正予算が「アベノミクスの総決算的な位置づけ」になるとした(22日付、ロイター)。
「10兆円の年度内消費は無理」
だが、年度末までの時間が限られている中、19年度補正にあまりに多い額を計上することには、本来は無理がある。財務省内には「真水(国による直接の財政支出)10兆円を年度内に消化するのは無理だ」(幹部)と困惑する声があるという(23日付、時事通信)。
また、自民党内では財政健全化を重視する傾向がある岸田政調会長が、記者団に対して「公共事業だけでも4兆円を超える額を目指さなければいけない」としつつも(25日付、読売新聞)、周辺には「10兆円の根拠が分からない」と漏らしたという(23日付、時事通信)。
政府は19年度補正予算案と20年度当初予算案について、両者を一体的にとらえて編成する「15カ月予算」とする方針を打ち出している。また、財政投融資を積極活用する方向で調整が進んでいるもようであり、「3兆円超」という具体的な金額やその使途も報じられている(成田空港の3本目の滑走路建設や既存の滑走路の延伸、関西空港へのアクセスが便利になる鉄道新線「なにわ筋線」の整備、新名神高速道路の4車線から6車線への拡張など)。
翌年度分の借換債の前倒し発行という、国債発行における一種の「貯金」が50兆円超という膨大なものになっている上に、日銀の異次元緩和が「悪い金利上昇」を完全に封じ込めていることから、債券市場では今回の経済対策などに伴う国債増発の動きは、ほとんど材料視されていない。
しかしながら、債券市場によるチェックがない中で、財政規律が相当緩んでしまっていることを、筆者は憂慮している。「金額ありき」的に財政出動の規模が決まってしまってから、案件をかき集めて「ハコの中身を埋めていく」というのは、過去に何度も見られたことなのだが、明らかに妥当な手法ではない。ムダな案件が混じりやすくなる。
とはいえ、国家公務員は政治に従わなければならない。19年度補正予算案を真水で10兆円規模にすべきだという与党からの強い要請を受けて、防災・減災目的の公共事業の積み増し以外に何をいくらまで計上することができるのか、財務省は頭を悩ませているのではないか。
経済対策を具体化するものとして編成された大型補正の直近の事例が、すでに触れた12年度の補正予算である。このときの補正予算全体の財政支出は13兆1054億円で、うち「日本再生に向けた緊急経済対策」に伴う財政支出は10兆2815億円だった。この10兆円強という数字が、与党からの今回の要求で大きな根拠になっていると考えられる。
災害復興も歳出計上の「要因」に
そして財務省が当時作成した「平成24年度補正予算の概要」によると、上記の内訳は、①「復興・防災対策」<東日本大震災からの復興加速、事前防災・減災など>(3兆7889億円)、②「成長による富の創出」<民間投資の喚起による成長力強化、中小企業・小規模事業者・農林水産業対策、日本企業の海外展開支援など、人材育成・雇用対策>(3兆1373億円)、③「暮らしの安心・地域活性化」<暮らしの安心、地域の特色を生かした地域活性化、地方の資金調達への配慮と緊急経済対策の迅速な実施>(3兆1024億円)である。それに公共事業などの国庫債務負担行為2530億円を加えたものが10兆2815億円である(四捨五入の関係で端数は一致せず)。
ここで注意すべきは、上記の数字は一般会計の補正予算に計上されたもの(7兆9946億円)以外、特別会計・財政投融資分も含んでいるという点である。具体的には、復興関係経費3177億円、次年度の復興財源の追加1兆2685億円、財政融資の追加4028億円などである。
では、19年度補正予算案はどうか。政府(財務省)が10兆円規模という与党の要求をはねつけるとは考えにくい。12月上旬ごろに経済対策が打ち出され、その具体化を主な⽬的として編成される19年度補正予算案は、20日ごろに20年度当初予算案と同時に決定されるとみられるが、12年度のときと同様、「経済対策に関する全体の財政支出は10兆円規模になった」という説明がなされるのではないか。
東日本大震災からの復興という、12年度にあった一般会計・特別会計への多額の歳出計上につながった要因とは規模感が異なるものの、今回は大雨・堤防決壊などを引き起こした大型台風襲来が要因ということになるのだろう。
また、3兆円超という大規模な財政投融資の活用、具体的には空港の滑走路増設や高速道路の車線拡大が、今回は報じられている。これも経済対策関連の措置として位置付けられる可能性が高い。
教育現場の状況が分かっているのか
そうした中で出てきたのが、読売新聞が11月27日朝刊の1面トップで報じた、全国の小中学校に高速・大容量通信を整備した上で、児童・生徒に1人1台の学習用パソコンかタブレット端末を無償で配備する方針を政府が固めたという記事である。遅くとも24年度までに実現を目指し、総事業費としては4000億~5000億円を見込み、うち19年度補正予算案には1500億円超を盛り込む方向だという。
この政府のアイデアは突っ込みどころが満載であるように思う。いくつか挙げてみよう。
- ・教育現場の側でパソコン・タブレット活用準備は早期に十分整うのか。IT(情報技術)リテラシーが不十分で、SNS(交流サイト)にさえ不慣れな教員は今なお少なくないと聞く。
- ・そうしたIT機器は、陳腐化が速く、壊れやすく、子供にとって重量が重い製品であることは考慮に入れているのだろうか(買い替えの時期や予算措置をどうするか、故障時の対応はどうか、学校に置いておくのか家に持って帰るのか)。
- ・ゲーム関連を含めて、どこまでアプリのダウンロードを可能にするのか。そして、誰がその使用状況や通信費用を管理監督するのか。
- ・パソコンからスマートフォンと若者の使う機器が移行しつつある状況はどこまで勘案されているのか(パソコンを持たずにスマホですべてを済ませる大学生の増加が最近話題になっている)。
以上のほかにも論点は数多い。要するに、「パソコン1人1台」プランの拙速な補正予算案への計上に、筆者は反対である。この話は、教育現場の現状などを踏まえた熟議を経て、事前にしっかり準備を整えてから、手堅く進めていくのが妥当ではないか。
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