
別々の調査主体によるサーベイ(アンケート調査)の結果が、かなり似通った経済の姿を描き出すことがある。それらの統計は信頼に足るものだとエコノミストは判断しやすいわけだが、今回はその実例をご紹介しよう<図1>。
①日本商工会議所が実施した10月のLOBO(早期景気観測)調査で、全産業の業況DI(回答比率「好転」-「悪化」)はマイナス24.1(前月比マイナス4.1ポイント)になった。
②帝国データバンクが実施した10月のTDB景気動向調査(企業規模の大小に基づくウエート付けはしておらず「1社1票」で算出しているため、中小企業の動向を強く反映する)で、景気DI(企業による7段階の判断にそれぞれ点数を与えて各選択区分の回答数に乗じて算出)は43.9(前月比マイナス1.1ポイント)になった。
中小企業の景況感が緩やかに悪化
ヒストリカルに見ると、両者の大まかな動き方は同じであり、中小企業の景況感が昨年から緩やかに悪化してきていることが分かる。10月は消費増税と大型台風襲来という追加的な悪材料があり、両調査とも数字は前月から悪化した。
大企業対象のサーベイでは、11月時点で景況感悪化に歯止めがまだかかっていない。業況判断DI(回答比率「良い」-「悪い」)は、ロイター短観とQUICK短観のいずれにおいても、製造業・非製造業ともに11月は悪化。ただし、非製造業の同DIはプラス圏にとどまっており、製造業から非製造業への悪化波及は今のところ限定されている<図2><図3>。
筆者は引き続き、日本経済はすでに昨秋に後退局面入りしたとみているものの、後退の深度としては浅い。消費増税や急激な円高によって「断層」が生じれば後退の実感が出てくるのだろうが、政府は追加財政出動で「断層」の発生をなんとか阻止する構えである。憲法改正を宿願としている安倍晋三首相は、景気が急に悪くなって内閣支持率が下がり、自らの政治的求心力が低下するような事態は、何が何でも避けたいところだろう。
11月12日に開催された政府与党連絡会議において安倍首相は、「時機を逸することなく、来年の東京オリンピック・パラリンピック後も見据えたマクロ経済政策を講じることで、日本経済の回復基調を確固たるものにしていきたい」と発言。12月上旬をめどとする3年ぶりの新たな経済対策の取りまとめで、政府・与党は協力して進めていくことを確認した。キャッシュレス決済に対するポイント還元措置は2019年10月から20年6月まで9カ月間の時限措置となっているが、東京五輪後の景気の下支えも見据えるとなると、還元期間延長が1つの選択肢として当然浮上してくる。景気動向に大きな「断層」を生じさせないようにする安倍内閣の方針が、今後も継続される見通しである。
翌13日には今年11回目となる経済財政諮問会議が首相官邸で開催され、消費増税に伴う景気下支え対応策の進捗状況がチェックされた。終了後の記者会見では西村康稔経済財政・再生相から説明があった。キャッシュレス決済へのポイント還元制度が予定通り20年6月に終了してしまうと、同年10月からの開始が総務省で検討されているマイナンバー(個人番号)カードを利用したポイント還元策(通称マイナポイント)まで3カ月間、消費下支え策がブランクになってしまう。そのため、後者を1カ月前倒しして9月開始とし、その準備のための費用を19年度補正予算案に計上したいというものだ。
Powered by リゾーム?