トランプ大統領が再選すれば、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長はハト派に交代させられるだろう(写真:AP/アフロ)
トランプ大統領が再選すれば、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長はハト派に交代させられるだろう(写真:AP/アフロ)

 今回は、グローバル経済や各国中央銀行の金融政策の今後などについて、筆者が大枠としてどのようなビューを抱いているのかがテーマである。以下の内容は、先日開かれたグローバル経済の今後を議論するパネルディスカッション用に、筆者が事前にまとめて手元で用意しておいたものがベースである。時間の制約もあって、その日は実際には用意した内容の数分の1しか話せなかったのだが、このコラムの読者の方々に参考になるところがあると思うので、Q&A形式で掲載したい。

(論点1)グローバルな経済状況や株式・債券「同時高」についての考え方は?

 世界経済は全体として減速(スローダウン)しており、中国とユーロ圏がその「主役」とみている。とはいえ、IMF(国際通貨基金)の世界経済見通しはなお前年比+3%台を保っており、意外に持ちこたえているとも言える。その主因は、米国の個人消費である。

 「トランプ減税」の効果が一巡した後も、あるいは米中貿易戦争が激化していても、良好な雇用・賃金環境を背景に、消費者のマインドはヒストリカルにみれば良好な水準にあり、個人消費の数字は予想に比べると良すぎるほどである。「アリではなくキリギリス」という気質が今でも変わらない米国人の過剰消費体質に、世界経済が依存していると言うこともできるだろう。

 逆に言えば、米国の個人消費が腰折れしてしまえば、世界経済は一段と厳しい状況に陥ることになる。景気が後退(失業率が上昇・賃金が減少)しないか、米国株の大幅な下落によって家計への逆資産効果が強まらないかを注視する必要が、大いにある。

10月の増税後は深く落ち込む

 日本は今なお世界第3位の経済大国だが、低い成長率が常態化しており、グローバル経済に及ぼす影響度合いはかなり小さくなってしまった。すでに景気後退局面入りしており、10月の消費税率引き上げ後には景気の落ち込み度合いがやや深くなるとみているが(さらに、仮にドル円相場が100円前後まで円高・ドル安に動く場合には影響がかなり大きくなる)、それでも世界経済全体への影響は限られるだろう。

世界の中銀の手詰まり感は早晩露呈

 このところの株価高止まりと債券利回り低下の同時現象は、「カネ余り」を示す出来事である。経済の構造変化からすでに時代にそぐわなくなった、今では高すぎる2%前後の物価目標に米欧の中央銀行がこだわり続けているがゆえに、および株価に対するケアが厚すぎるがゆえに、金融緩和に傾きやすくなっている。

 このため、実物経済のニーズに比して「多すぎるマネー」が供給されており、バブルと言うのが適切かどうかは分からないが、資産価格が上昇しやすくなっていると考える。日米欧の中央銀行のバランスシート合計額は再び拡大しつつあり、「カネ余り相場」が続いていくことを示す一種のシンボルになっている感がある。

(論点2)株価は高いが物価上昇は鈍いなど、金融緩和効果が疑問視されているが?

 「ヒモを引っ張ればピンと張って効果があるが、ヒモを緩める(たわませる)ことによる効果には限りがある」という例えが、金融市場には昔からある。筆者は、これ以上の金融緩和には、目に見えた効果はないと考えている。その意味で、先進各国の中央銀行の金融緩和は「手詰まり感」を強めている、あるいは「手詰まり」であることが米連邦準備理事会(FRB)も含めて、早晩露呈するだろうとみている。

 その後に来るのは、「粘り強い金融緩和の継続」、すなわち日銀流の「持久戦」になるだろう。さまざまな非伝統的手法を発明し駆使してきた日銀の異次元緩和は、以前は「異端」だとみられていたが、現在では欧米中銀の「お手本」「テキストブック」になってきた感が強い。むろん、これは決して喜ぶべきことではないのだが……。

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