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8月13日、ペンシルベニア州に建設中の工場を視察するドナルド・トランプ米大統領(右)。2020年の大統領選で、経済ブームが再選を後押しすると期待しているが、ドル高が足かせ

 英経済紙フィナンシャル・タイムズ8月7日付の1面トップを飾ったのは、「ねたましい・米国はドルの謎に直面(Green eyed / US faces dollar conundrum)」という記事だった。

 ドル実質実効レートが高止まりしているチャートと、部分拡大されたドル紙幣の写真を伴っているこの記事は、米FRB(連邦準備理事会)が金融危機以降で初の利下げに動いた前週にドルが上昇したことを指摘。トランプ大統領やムニューシン財務長官はドルの強さについて公に不満を口にしているものの、米国がそれに対して何ができるのかは現時点では不明確で、トランプ大統領のツイートは助けにならない可能性が高く「米財務省がFRBや他の中央銀行の助力なしにこの問題に対応するのは難しい」だろうと結論づけた。

 FRBが週に1度公表している為替相場に関する統計資料には、彼らが日次で算出している名目ベース(物価の騰落を勘案していないベース)のドル実効レートが記載されている。それを見ると、7月にFRBが利下げを開始した後も、ドルは先進国通貨と新興国通貨の双方に対して、高値圏での推移になっている<図1>。

■図1:米ドル名目実効レート(対先進国通貨、対新興国通貨)
(出所)米FRB

 米財務省が為替介入する場合、基本原則として資金面でFRBの協力が必要である。さらに、為替介入がそれなりの効果を市場に及ぼすためには、介入の対象になる通貨を発行している国の中央銀行による協調姿勢の取り付けも必要になる。

ドル高がトランプ大統領の脅威に?

 7月10日のブルームバーグの報道によると、トランプ大統領はドル高が自らの経済アジェンダの脅威になると懸念を募らせており、ドル押し下げの方策を考えるよう側近に求めている。

 同大統領は、FRB理事の空席補充に指名する意向を以前に表明したジュディ・シェルトン、クリストファー・ウォラー両氏と面接した際、20年の大統領選で自らの再選に寄与することが期待できる経済ブームを、ドル高が鈍らせる恐れがあると嘆いたという。だが関係者によると、クドローNEC(国家経済会議)委員長とムニューシン財務長官は、ドル押し下げを意図するいかなる介入にも反対姿勢である。

 これまで中国の為替政策を厳しく批判してきたトランプ政権自身が、米国製品の競争力を高めるという近隣窮乏化政策的な狙いによる為替介入に手を染めた場合、金融市場は「通貨安競争(通貨戦争)」が本格化すると受け止めて、不安定化する可能性が高い。また、トランプ大統領は立場上、もはや介入を随時用いる中国の為替政策を批判することができなくなってしまう。

 このように考えてみると、米国1国だけで、為替介入という強引な手段を用いてドル安誘導を図るシナリオは現実的ではない。